Cascade Lakeマイクロアーキテクチャの次世代Core X

最終更新:2019/12/26

2019年10月2日、Intelは次世代Core Xシリーズ・プロセッサを発表した。プロセスルールは前世代SkyLake-Xと同じ14nm。ナンバリングの規則は、先に発表された第10世代CoreプロセッサのIce Lake-U/Yが独特な4桁ナンバリングだったのに対し、その直後に発表されたComet Lake-U/Yと同様に5桁になっている。

Cascade Lake-XシリーズCore Xプロセッサ
製品名 Core i9-10980XE Core i9-10940X Core i9-10920X Core i9-10900X
コア/スレッド 18コア/36スレッド 14コア/28スレッド 12コア/24スレッド 10コア/20スレッド
ベースクロック 3.0GHz 3.3GHz 3.5GHz 3.7GHz
ターボ・ブースト2.0クロック 4.6GHz 4.5GHz
全コアターボクロック 3.8GHz 4.1GHz 4.3GHz
ターボ・ブースト3.0クロック 4.8GHz 4.7GHz
L3キャッシュ 24.75MB 19.25MB
オーバークロック 対応
PCIe 3.0レーン数 最大72レーン(CPU 48 + PCH 24)
対応メモリ DDR4-2933(クアッド・チャネル)最大256GB
TDP 165W
S-Spec SRGSG SRGSH SRGSJ SRGV7
ステッピング L1
バルク価格(1,000個ロット) $979 $784 $689 $590
BOX価格(1,000個ロット) $1,000 $797 $700 $599
日本小売価格(1個) 13万8000円 10万8000円 9万9000円 8万6000円

CPUソケットはLGA2066で変わらず、引き続きX299チップセット搭載マザーボードで使用可能。「X299X」というキーワードも見かけられるが、マザーボードメーカーがCascade Lake-Xに最適化した製品に独自につけた商品名のようで、新チップセットの名称ではない模様。

 

機能的にはThunderbolt 3とWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)をサポートし、CPUが直接制御できるPCI Expressが44レーンから48レーンに増えたことくらいで、それほど大きな変更はない。X299チップセットをそのまま使うため、PCI Express 3.0のままで変わりなく、第3世代Ryzenで話題になったPCI Express 4.0の正式サポートはまだだいぶ先の話のようだ。

日本国内価格が判明し、もっとも注目されるi9-10980XEが14万円弱という初値が出回り始めた。前世代のi9-9980XEの初値が25万円だったことを考えると、Intelの半額戦略はどうやら本気と思って間違いなさそうだ。8コアのi9-9900Kの初値が確か6.5万円くらいだったことを考えると、物理コアが倍以上の18コアで14万円というのはIntelファンの目には魅力的に映るかもしれない。ただ、プロセスルールの微細化をしていないためにTDPの時点で165Wと天井知らずで、空冷では定格いっぱいのクロックでは回せないことが容易に想像され、冷却関係のほうに相当な投資が必要になりそうだ。

Intel、”半額”になった新「Core X」シリーズプロセッサ ~最大18コアで979ドル

米Intelは2日(米国時間)、開発コードネーム”Cascade Lake-X”こと新Core Xシリーズプロセッサを発表した。  最大18コア/36スレッドまでのSKUが用意され、「Turbo Boost Max Technology 3.0」により最大クロック4.8GHzでの動作を謳う。第10世代目のCore …

Cascade Lakeな新Core XとXeon W-2200発表、18コアで979ドルの衝撃

第3世代Ryzen Threadripperに対抗? インテルは2019年10月8日、最新CPU「Xeon W-2200シリーズ」と新しい「Core Xシリーズ」を発表した。いずれも開発コードネーム「Cascade Lake」ベースの製品で11月に提供開始予定。新Core Xシリーズの情報自体は10月2日(米国現地時間)に出回っていたが、同社の情報サイト「Intel …

X299マザーボード新製品

ASRock

Cascade Lake-Xシリーズ・プロセッサの発表を受けて、各社X299チップセット搭載マザーボードの新製品の噂があったけど、2019年11月6日よりASRockから「X299 Steel Legend」が発売された。売り出しは税込みで約3.4万円。新製品であることを考えると比較的求めやすい価格と言えそうだ。

情報のリークはGIGABYTEのAORUSシリーズの方が早かったけど、Cascade Lake-Xの正式発表後日本一番乗りはASRockとなった。チップセットそのものに変更がないため、Z390とi9-9900Kがそれぞれ発表された時のような白熱感はあまりなく、鳴り物もなく静かな幕開けとなった。

X299 Steel LegendはUSB 3.2に対応するなど順当な進化をしているけれど、X299チップセット搭載マザーボードとしてはコンパクトな内容で、コストパフォーマンス重視の設計と言えそうだ。CPU直下のPCI-Eに4レーン分余裕ができたにも関わらずx16/x16/x8/x4動作でGPUも3-Way SLIまで。Skylake-Xと変わらないというのはやや拍子抜けだ。Thunderbolt3に比べるとUSB 3.2 Gen2x2(20Gbps)に対応している機器がまだ出揃っていないことを考えると、飛びつくのは少し待った方がいいかもしれない。

ASRock X299 Steel Legend

Supports Intel Core™ X-Series Processor Family for the LGA 2066 Socket; 11 Power Phase Design, Dr. MOS, Dual Power Connectors; XXL Aluminum Alloy Heatsink & Heatpipe Design; Supports DDR4 4200+(OC); 4 PCIe 3.0 x16, 1 PCIe 3.0 x1, 1 M.2 Key-E for WiFi; NVIDIA NVLINK™, 3-Way SLI™, AMD 3-Way CrossFireX™;

X299 Creator

mini DisplayPort入力を2ポート、Type-C Thunderbolt 3を2ポート備え、グラフィックス・カードからのDisplayPort出力をThunderbolt 3に乗せ替えたうえで、デイジーチェーンを利用してモニタと液晶ペンタブレットに同時に出力できる。

クリエイター向けを謳うマザーボードに共通した仕様で、グラフィックス・カードからの出力信号を調整すれば、モニタと液晶ペンタブレットの画面には同じ画質のものが表示されることを意図している。

これまでは、モニタと液晶ペンタブレットを別の映像出力ポートに接続して表示をクローン化することで同じ効果を得ていたわけだけど、出力系統が独立していたため、色調補正などを映像出力ポートごとに設定しなければならないなど、不便も多かった。特に、映像表示専門のモニタと、あくまでも入力デバイスであり、ペンのタッチを忠実に再現することを目的とした液晶タブレットでは表示できる色域が異なるなど液晶のグレードに差があることもよくあり、液晶ペンタブレットのタッチを高画質モニタで同様に反映するのはそれなりに技術を必要とした。これが、同じDisplayPortから出力されたものに統一できれば、最終的な仕上がりを常に確認しながら創作ができるということであり、液晶ペンタブレットの表示に惑わされることはなくなるというわけだ。

MSI

MSIは、メインボードに機能を平面的に詰め込むだけでは差別化ははかれないと判断したのか、M.2 SSDを増設できる冷却機能付き拡張カードや、10Gbit LANカード、Thunderbolt3カードなど、垂直に追加する付属品を追加してMSIのマザーボードを購入しさえすれば、あとは何も追加する必要はないといった趣だ。

X299 PRO 10G

4.2万円。

X299 PRO 10G

Intel, the Intel Logo, Intel Inside, Intel Core, and Core Inside are trademarks of Intel Corporation or its subsidiaries in the U.S. and/or other countries. © 2019 NVIDIA Corporation. All rights reserved. NVIDIA, the NVIDIA logo, GeForce, GeForce RTX, and NVIDIA Turing are registered trademarks and/or trademarks of NVIDIA Corporation in the United States and other countries.

Creator X299

6.8万円。

Creator X299

Unique look and feel inspired by the craft of crystal for all Creators. Features the latest USB3.2 Gen2x2 and 10G LAN, Wi-Fi 6, Triple Turbo M.2 with Shield Frozr, Core Boost, Audio Boost 4 with Nahimic, ThunderboltM3 card and M.2 Xpander-Aero card, Mysti

ASUS

ASUSからは様々なグレードで多数の製品を投入してきた。

PRIME X299-A II

4.4万円

Prime X299-A II | Motherboards | ASUS USA

Intel LGA 2066 socket: Ready for the latest Intel® Core™ X-series processors AI Overclocking: Quickly optimizes your CPU performance based on the CPU and cooler, achieving results that are extremely close to manual tuning by experts Robust power design: 12 IR3555 power stages, ProCool II connectors, alloy chokes and ultra-durable

PRIME X299-DELUXE II

6.6万円

PRIME X299-DELUXE II | Motherboards | ASUS USA

ASUS Prime X299-Deluxe II is the ATX motherboard that´s been expertly engineered for professional content creators and power users who work hard by day and play harder by night. This powerful, innovative board puts a friendly face on advanced enthusiast controls, enabling you to maximize performance, cooling and personalization with ease.

ROG Strix X299-E Gaming II

4.8万円

ROG Strix X299-E Gaming II | Motherboards | ASUS USA

Ready for the latest Intel® Core™ X-series processors to maximize connectivity and speed with up to three M.2 drives, USB 3.2 Gen 2, Intel® VROC and Intel® Optane™ memory compatibility Unmatched personalization: OLED and ASUS-exclusive Aura Sync RGB lighting, including RGB headers and addressable Gen 2 RGB headers Optimal Power

ROG Rampage VI Extreme Encore

ASUSのROGブランドのウルトラハイエンドに位置づけられるマザーボード。8.1万円という価格もハイエンドだけど、スペックをパッと見る限りではどこらへんがウルトラハイエンドなのか少しわかりにくい。ASUSの力の入れたところがどこなのか、もう少し調べる必要がありそう。

ROG Rampage VI Extreme Encore | Motherboards | ASUS USA

Ready for the latest Intel® Core™ X-series processors to maximize connectivity and speed with up to four M.2 drives, USB 3.2 Gen 2×2, Intel® VROC and Intel® Optane™ memory compatibility Robust power delivery: Optimized power solution with 16 Infineon TDA21472 power stages, ProCool II power connectors, MicroFine Alloy chokes and

GIGABYTE

内容としてはExtended ATXサイズに所狭しと機能満載に盛り込んだGIGABYTEの「X299X AORUS MASTER」のほうが見応えがある。PCI-Eスロットもx16サイズを4基備え、Cascade Lake-XのCPU直下のPCI-Eレーンをいっぱいまで使うx16/x16/x8/x8で動作し、クアッドGPUも可能になっている。4基もGPUを搭載するとなると、もはやゲーミング性能の追求というよりもGPGPUをフル活用したAIの深層学習が主な用途になりそうだけど、消費電力もとんでもないことになりそう。Cascade Lake-Xは深層学習に最適化した命令セットを持っているということなので、ゲーム用途よりも科学技術計算に本領発揮といったところだろう。

ただ、E-ATXサイズでこれだけの豪華仕様となると価格のほうもX299 Steel Legendの最低でも倍以上はしそうだろうと予想していたけど、2019年11月23日に秋葉原の店舗に入荷した情報によると、4.4万円と思ったほど高価にはならなかった。Amazon価格でも4.5万円程度だ。これと比べてしまうと、X299 Steel Legendよりは少し背伸びしてでもX299X AORUS MASTERを選びたくなる。

X299X AORUS MASTER (rev. 1.0) | Motherboard – GIGABYTE Global

Product specifications and product appearance may differ from country to country. We recommend that you check with your local dealers for the specifications and appearance of the products available in your country. Colors of products may not be perfectly accurate due to variations caused by photographic variables and monitor settings so it may vary from images shown on this site.

GIGABYTE X299X AORUS MASTER マザーボード [Intel X299チップセット搭載] MB4861
posted with amazlet at 19.11.26
参考価格: ¥ 44,817 (2019-11-26)
Gigabyte (2019-11-22)

参考記事

DS218jをWD Elementsの内蔵HDDでRAID1化

最終更新:2021/03/25

Synology DiskStation DS218jにWD Blue 4TBを2基搭載して主にDiXiM Media Serverの母機として運用していた。容量をすべて活かすためにRAIDはあえて組まず、冗長性がないことは承知のうえでBasicモードで2基のHDDを独立させていた。

ところが、この運用方法にはひとつ問題があることに最近気付いた。この運用方法の場合、どちらかのHDDにDiskStationのOSであるDSM(DiskStation Manager)とDiXiM Media Serverのパッケージをインストールして使うことになる。もし、DSMが入っているほうのHDDが故障した場合、HDDを交換してDSMとDiXiM Media Serverを再インストールすると、DiXiM Media Serverの暗号化情報が書き換わってしまい、それまでNASにムーブさせてきた録画番組を再生できなくなる可能性が高い。もしかしたら、DS218j本体のシリアル番号等の情報が同じであればHDDを交換したとしても問題なく動作するのかもしれないけど、故障してから録画番組のデータがすべてまったく役に立たないものになってしまって復旧不能に陥った時の損害を考えるとあまりにリスクが高すぎる。

そこで、どちらのHDDが故障したとしてもDSMとDiXiM Media Serverの情報を維持するためにRAID1化することを計画した。

RAID1化は必須ではない

後で判ったことだけど、上記の認識には誤りがあって、2基のHDDを独立して運用していてもDSMは両方のHDDにミラー化されていて、データ領域のRAID1化は必須ではなかった。ユーザーが気が付くような初歩的な問題はメーカーはあらかじめよく承知していて、どちらのHDDが故障したとしても運用が止まらないように工夫されている。

DiXiM Media Serverはシステム・ボリュームではなく、データ領域のボリュームに格納されるけど、DSMさえ生き残っていれば、DiXiM Media Serverを再インストールしてもデータ領域のボリュームに残っている録画番組を再生できる。

ただし、すべてのHDDを交換してDSMを新たにインストールしてしまうとHyper BackupなどでUSB HDDに待避しておいた録画番組のデータを復元しても再生できないことが判明している。HDDを交換するにしても、それまで使っていたDSMが初期化されないように注意を払いながら1基ずつ順次交換していくようにしなければならない。

HDDの選定

RAID1化するにあたって、保存できる容量が減ってしまうのは避けたかったため、8TBのHDDの中から選定することにした。コンシューマ向け普及機であるWD Blueは6TBまでしかラインナップがなく、8TBのモデルがないためNAS用HDDであるWD Redが有力な候補となる。

ところが、WD Blueの4TBが8千円前後で買えるのに対し、WD Redの8TBは2.5万円前後で1TBあたりの単価が5~6割増しになってしまう。SeagateのBarracuda 8TBが1.5万円前後で買えることを考えると割高感が強い。そうかと言って、やむを得ない事情がない限り、安易にはSeagateは選びたくない。記録方式がSMR(瓦磁気記録方式)であることは技術の進歩であまり問題にはならないようだけど、ワークロードは55TB/年と一般的なデスクトップ用HDDのレベルに留まることと、メーカーの信頼性の問題だ。WD Blueの「WDxxEZAZ」シリーズもSMRだけど、信頼感という心理的な差は大きい。なお、同じWD Blueでも「WDxxEZRZ」シリーズはCMR。

WD HDD 内蔵ハードディスク 3.5インチ 8TB WD Red NAS用 WD80EFAX 5400rpm 3年保証
参考価格: ¥ 25,555 (2019-09-28)
Western Digital (2018-06-01)
Seagate BarraCuda 3.5
参考価格: ¥ 15,352 (2019-09-28)
SEAGATE (2018-01-13)

WD Elementsの内蔵HDDはUltrastar?

WDの8TB HDDをなんとかより安価に入手する方法はないかとあちこち調べた。すると、昨年2018年から話題になっているかなり有名な話として、WDの外付けHDD(USB 3.0接続)の「WD Elements」や「WD MyBook」の8TBモデルの中身が、WDに買収された日立のHDD部門「HGST(Hitachi Global Storage Technology)」のエンタープライズ・グレードHDD「Ultrastar」だとする噂があった。

WDではBlue、Red、Purple、Black、Goldなど色でグレード分けされたモデルの他に、データセンター向けのHDDとしてUltrastarシリーズを今でも製造・販売している。WD Elements 8TBはAmazonで2万円前後で販売されているけど、WD製のエンタープライズ・グレードのHDDをまともに買ったら、1世代前のUltrastar DC HC320の8TBモデルでも4万円くらいはする。この噂が本当ならば、ほぼ半額なうえ、WD Redよりも安価に8TB HDDを入手できることになる。

Amazonのユーザーレビューなどを調べると、内蔵されているHDDにはWD80EMAZという型番が与えられており、製造時期によって「WD80EMAZ-00M9AA0」と「WD80EMAZ-00WJTA0」の2種類あることが判明している。概ね、2018年第4四半期以降に製造されたものはWD80EMAZ-00WJTA0になっているようだ。

2020年7月現在、「WD80EZAZ-11TDBA0」という型番のHDDが追加されているようだ。ただ、R/NはUS7SAL080で変わっていないので、設計や仕様はほぼ同じと推測できる。ネットにアップロードされている筐体の写真を見る限り、ヘリウム充填型と見て間違いないようだ。

WD Elements(8TB)内蔵HDDの種類
型式番号 近似製品 R/N 回転速度 封入ガス
WD80EMAZ-00M9AA0 Ultrastar DC HC320 8TB US7SAN8T0 5,400rpm なし(空気)
WD80EDAZ-11TA3A0
WD80EMAZ-00WJTA0 Ultrastar DC HC510 8TB US7SAL080 5,400rpm ヘリウム
WD80EZAZ-11TDBA0

ただ、この情報は一部のマニアによってまことしやかに囁かれている噂レベルのものでしかなく、当然ながらWDは公式に肯定も否定もしていない。本来のUltrastarは7,200rpm仕様であるのに対して、噂のHDDは5,400rpm仕様になっており、まったく同じ物とは言えず、日本語の電子掲示板で交わされている断片的な情報だけでは根拠に乏しい。

そこで、画像検索を頼りに海外のサイトなども調べてみると詳細な検証がなされている記事があり、これらのHDDのR/NはUltrastarのものと一致しているという有力な情報が見つかった。「R/N」が何の略称なのかは調べがつかなかったけど、WDが製造しているHDDの設計番号のようなもので、これが一致しているHDDは、型式番号が異なっていたとしても、仕様が非常に似通っていることがよく知られている。

例えば、コンシューマ向けの現行WD BlueやWD Redの小容量モデル(WDxxEFRX)のR/Nは「800055」になっており、ファームウェアなどを除く機械的な設計はほぼ同じということになる。ちなみに、WD Elementsの4TBモデルに内蔵されているHDDにはWD40EMRX-82UZ0N0という型番のものが採用されているけど、これのR/Nも800055なので、機械設計としてはWD BlueかWD Redに近いものと考えられる。

DS218jとの互換性

Synologyの公式サイトの互換性情報を調べてみると、DS218jはエントリーモデルでありながら、エンタープライズ・グレードのUltrastarにも正式に対応しており、互換性には問題ない。たまたまAmazonで2019年9月20日頃にタイムセールがあり、WD Elementsの8TBモデル(WDBBKG0080HBK-JESN)が1.8万円弱で売られていた。6TBモデルとほぼ同価格だったので、これは買わない手はないと判断して3基購入した。

WD HDD 外付けハードディスク 8TB Elements Desktop USB3.0 WDBBKG0080HBK-JESN/2年保証
参考価格: ¥ 21,010 (2019-09-28)
購入価格: ¥ 17,680 (2019-09-22)
Western Digital (2018-07-09)

HDDの調査

型式番号(電子的調査)

届いたHDDを開梱し、Windows PCに接続してCrystalDiskInfoで調べてみると、3基すべてがWD80EMAZ-00WJTA0であることが判明した。ひとまず第一段階のハードルを越えるのは成功できたようだ。仮にWD80EMAZ-00M9AA0であったとしてもUltrastar DC HC320の近似品であることには変わらないため、それほど大きな問題にはならない。上でも書いたように、HC320は本来は4万円クラスの製品であるため、1.8万円で買えるのならそれでもかなりお得だということだ。

ただし、米AmazonではHC320の8TBは200ドル前後で販売されている。日本ではエンタープライズ・グレードのものを買い求めてまでHDDに信頼性を要求するという消費者心理がないため、HC320は単純に在庫が希少であるために流通価格が上がっているという側面があるのは否めない。

失敗があるとすれば、内蔵HDDのロットがいつの間にか切り替わってしまい、判明している2種類のどちらでもない仕様不明のHDDが入っていた時だ。もっとも、WD Blueに8TB以上のラインナップがないことを考えると、8TB HDDを2万円前後で入手できる手段があるというだけでも意義があるだろう。2021年1月現在のところ、WD Elementsの8TBモデルにはHC320又はHC510の近似品が内蔵されている。

一応、CrystalDiskMarkで転送速度の計測もしてみた。ReadよりもWriteのほうが速いというのはやや不可解だけど、SATAをUSB 3.0に変換していながら184~186MB/sという転送速度は5,400rpmであることを考えに入れてもなかなかの速度ではないかと思う。これだけではSMRなのかPMR(CMR)なのかは判断がつかないので、本来ならば様々な大きさのファイルを読み書きして計測する専用のソフトを使うべきなんだろうけど、さすがにそこまで気が回らなかった。

R/N、P/N(筐体ラベル)

WD80EMAZ-00WJTA0
WD80EMAZのラベル面。筐体の形状から言ってもヘリウム充填HDDだと判る。ただ、筐体の上端に擦ったような傷があり、HDD単体で出荷するための部品としての検品では不良品として弾かれたものの、使用には問題ないとされて内蔵HDDに転用されている可能性がある。初期不良などで返品されたHDDを整備して安く卸している再調整品(リファービッシュ品)の可能性もある。安いのには安いなりの理由があるということだろう。

1基はDS218jのバックアップに回すため、そのままUSB HDDとして使用するけど、残りの2基は外装を分解して内蔵されているHDDを取り出す。

外装は非常に簡素に作られていて、簡単に分解できる。ただし、外装の中にはむき出しのHDDがそのまま収納されているため、金属の工具を差し入れて分解しようとすると中のHDDを破損させかねない。要らなくなったプラスチック製のクレジットカードやポイントカードなどを使うとHDDを傷つけることなく分解できる。YouTubeにも分解動画がアップロードされているので、それを参考にするとよい。

ただし、分解してHDDを取り出してしまうと再度同じように組み立てるのは困難なため、USB HDDとしては二度と利用できなくなる可能性が高いことには留意しなければならない。また、2年間とされている保証も受けられなくなるので、分解した時点で自己責任になる。

取り出したHDDのラベルを調べてみると、CrystalDiskInfoで電子データとして調査するだけでは判らない情報が見えてくる。R/Nは「US7SAL080」となっていた。

P/Nは「2W10227」となっており、これを詳細に照合できれば、HDDコントローラの電子回路の設計、SATAインタフェースの仕様、ファームウェアの種類なども特定できるけど、メーカー側がP/Nの対応関係を明らかにしていないと照合は難しい。

HGST製HDDには、後述する「3.3V問題」というものがあり、同じR/Nでもそれの影響を受けるものと受けないものとを区別して出荷していることがある。それを見分ける手がかりになるのがP/Nなんだけど、ユーザーの運用次第でまったく起動しなくなることもある、といったクリティカルな影響を受けるような問題でない限りはP/Nの意味するところの構成が明らかにされていないことが多い。

仕様書

基本的な調査が終わったところで、「型式番号がWD80EMAZ-00WJTA0だったからヘリウム充填型の良いほうのHDDを首尾良く入手できた」と判断してしまうのでは、噂を鵜呑みにして早合点しているのと大差ない。

そこで、WDが正式に公開している仕様書を調査して噂が本当だったのかの証拠固めをする。

Product Manual: Ultrastar DC HC510 (He10) OEM Specification – SATA models ©Western Digital

仕様書冒頭の概要の節に、HDDの容量とR/N(Type)とモデル番号の対応表がある。8TBの行を見ると、Typeは「US7SAL080」となっており、ラベルのR/Nと一致する。Ultrastar DC HC510 8TBと同程度の設計のものであることが確認できた。

Product Manual: Ultrastar DC HC510 (He10) OEM Specification – SATA models ©Western Digital

ただし、HGSTのヘリウム充填技術である「HelioSeal」も含め、すべての技術は既にWDのものであるため、最近は、US7SAL080というR/NはUltrastar DC HC510固有のものではなくなっている。2019年3月頃に製造されたヘリウムガス封入型のWD Red 8TB(WD80EFAX-68LHPN0)にも使われている。

同時期に製造された、封入ガスのないWD Red 8TB(WD80EFAX-68KNBN0)のR/Nは「US7SAN8T0」であり、Ultrastar DC HC320の設計に近いものになっている。同じWD80EFAXでも仕様の異なるものが混在しているというのは非常に紛らわしいけど、ロット単位で常に改良が続けられているということでもあり、ヘリウム充填型など最新技術に敏感でありたいなら、ユーザーも賢くならなければならないということなんだろう。

Product Manual: Ultrastar DC HC320 SATA OEM Specification ©Western Digital

なお、2016年3月頃に製造されたWD Red 8TB(WD80EFZX-68UW8N0)のR/Nは「US7SAJ800」となっており、HGST Ultrastar He8の設計に近い。He8の仕様書は既に削除されているため、現物を閲覧するのは難しいけど、R/Nとの対応関係はネットに残っている断片的な情報からも明らかだ。このR/Nは、同時期のヘリウムガス封入型のWD GoldやWD Purpleの筐体設計にも流用されている。さらに、同時期にWDの外付けHDDとして販売されていたWD easystoreの内蔵HDDに採用されていたWD80EMZZという型番のHDDのR/Nも「US7SAJ800」だった。

R/Nと各モデルの対応
R/N 型式番号 P/N F/W キャッシュ 分類
US7SAL080 Ultrastar DC HC510 (He10)        
WD8003FRYZ-01JPDB1 2W10216 01.01H02 256MB WD Gold
WD82PURZ-85TEUY0 2W10455 82.00A82 256MB WD Purple
WD80EFAX-68LHPN0 2W10209 83.H0A83 256MB WD Red
WD80EMAZ-00WJTA0 2W10227 83.H0A83 256MB?  
WD80EZAZ-11TDBA0 2W10207 83.H0A83 256MB?  
US7SAN8T0 Ultrastar DC HC320        
WD81PURZ-85LWMY0 2W10451 80.00A80 256MB WD Purple
WD8003FFBX-68B9AN0 2W10444 83.00A83 256MB WD Red Pro
WD80EFAX-68KNBN0 2W10443 81.00A81 256MB WD Red
WD80EDAZ-11TA3A0 2W10445 81.00A81 256MB?  
WD80EMAZ-00M9AA0 2W10448 81.00A81 256MB?  
US7SAJ800 Ultrastar He8        
WD8002FRYZ-01FF280 2W10104 01.01H01 128MB WD Gold
WD80PURZ-85YNPY0 2W10114 80.H0A80 128MB WD Purple
WD80PUZX-64NEAY0 2W10103 80.H0A80 128MB WD Purple
WD8001FFWX-68J1UN0 2W10107 83.H0A03 128MB WD Red Pro
WD80EFZX-68UW8N0 2W10102 83.H0A83 128MB WD Red
WD80EMZZ-00TBGA0 2W10101 83.H0A03 128MB  

3.3V問題

次に、仕様書の信号定義のページを見る。信号コネクタの定義は普通のSATA接続のHDDと同じだけど、電源コネクタの定義が普通のものとは異なる。従来は1番から3番ピンには3.3V電源が割り当てられていたけど、この表では1番と2番ピンが「Reserved(予約)」、3番ピンが「Reserved or PWDIS」となっている。これについて、かなり長い注釈がつけられている。注釈を翻訳すると、次のようなことが書いてある。

SATA 3.1仕様及びそれ以前のリビジョンでは、P1、P2及びP3ピンに3.3Vが割り当てられていた。さらに、デバイス・プラグのP1、P2及びP3ピンを一緒にバス接続する必要があった。この製品(Ultrastar DC HC510)のスタンダード構成では、P3はP1及びP2に接続され、この製品はSATA 3.3機能をサポートしないSATA 3.2システム用に設計されたシステムでSATA 3.1又はそれ以前のバージョンの製品として動作する。オプション構成のSATA 3.3 POWER DISABLE機能がサポートされている製品では、P3がPOWER DISABLE CONTROL PINとして割り当てられている。P3をHIGH(2.1~3.6V最大)で駆動すると、駆動回路への電力供給は無効になる。このオプション機能を備えたドライブは、SATA 3.1仕様以前に設計されたシステムではパワーアップしない。これは、P3をHIGHで駆動するとドライブがパワーアップしないためである。

つまり、Ultrastar DC HC510にはスタンダード構成とオプション構成の2種類があり、スタンダード構成のHC510には3.3V電源を供給しても問題なく動作するけど、オプション構成のHC510に3.3V電源を供給してしまうとHDDが起動しないということ。

では、今回使用するWD80EMAZ-00WJTA0はどちらの構成かというと、オプション構成の製品で、一般的なATX電源に接続してしまうと起動しない。試しに古いATX電源を搭載している、先日リフレッシュした旧メインPCに接続したところ、HDDに電源が入らず、システムにドライブとして認識されなかった。もちろん、ケーブルやコネクタに問題がある可能性もあるので、念のためWD Blueを接続してみたところ正常に認識したため、WD80EMAZ-00WJTA0はオプション構成であることが確定した。また、オプション構成であることをもって、SATA 3.3仕様対応品であるHC510の近似品であることも確定した。

もし、DS218jが従来式のSATA電源を供給しているとHDDをセットしても起動しないという問題が起こる可能性があったけど、Synologyの公式サイトを信じる限り、構成に関わらずHC510も使えるため、3.3V電源は供給していないと予測できる。あくまでも予測なので、検証するまではここが第二段階のハードルになるけど、結論から先に書いてしまうと、DS218jはエントリーモデルでありながら、SATA 3.3仕様のHDDにも対応している。

Product Manual: Ultrastar DC HC510 (He10) OEM Specification – SATA models ©Western Digital

現行のSATA接続の3.5インチHDDは、電源として5Vと12Vしか使用していない。2.5インチHDD/SSDは5Vだけで動作する。SATA電源ケーブルには3.3V電源のラインもあるけど、今は使われていないというのが実情だ。唯一の例外として、1.8インチHDDだけが3.3Vを使用しているけど、一般的な用途のPCやNASで1.8インチHDDを使うことはまずない。

そこで、SATA 3.2仕様では3.3V電源を廃止し、1番から3番ピンを予約とした。更にSATA 3.3仕様では1番及び2番ピンを予約とし、3番ピンに「POWER DISABLE」という機能に割り当てることにした。3番ピンに3.6V以下の電圧を印加している間は、HDDの駆動部の電源入力を遮断してパワーアップを抑制するというもので、システム全体の電源を切らなくてもHDDをハードウェア・リセットできるようにするものだという。Ultrastar DC HC510はこのSATA 3.3仕様にいち早く対応しているため、SATA 3.1以前の仕様のATX電源を使用していると3番ピンに3.3V電源が供給されてしまうため、HDDが起動しないという問題が起こった。これを「HGST製HDDの3.3V問題」、一般には略して「3.3V問題」という。

新型番について追記

2020年4月現在、レビュー投稿などを見る限り、WD Elementsの8TBは WD80EMAZ-00WJTA0 で変わっていないようだ。WDは予告なく内蔵HDDを切り換えるので、いつまで製造が続くかはまったく見通しが立たないんだけど。R/Nががらっと変わってしまうような新製品発表の情報もないので、しばらくは今の仕様のHDDを作り続けると思われる。

2020年7月現在、レビュー投稿などの記事を見ると、WD Elementsの8TBは WD80EZAZ-11TDBA0 に変わっているようだ。R/Nが「US7SAL080」で同じであることと、ファームウェアのバージョンが「83.H0A83」でこれも同じであることから、HDDの設計や仕様はほぼ同じ物と推測できる。ヘリウム充填型と見て間違いないだろう。生産拠点の変更とか、単にロットが変わったとか、外部の人間には知りえない事情による型番変更の可能性が高い。ただし、一時は市場に出回らなくなったと思っていたWD80EMAZ-00M9AA0も出荷されているようで、ヘリウム充填型が当たるかどうかは再び運任せになった。

本記事を書いてから1年近く経ち、正真正銘のWD Redや、CMRであることが明言されているWD Red Plusの8TBが2万円を切るようになったので、無理にWD Elementsの内蔵HDDでヘリウム充填型を狙わなくても良くなったとも言える。WD Elementsの8TBが1.6万円で売られているので価格的優位はまだあるけど、運を天に任せて外付けHDDの分解に手を出さなければならないほどの割高感はなくなったように思える。

2021年1月現在、2020年12月~2021年1月頃に日本のAmazonから購入したWD Elementsの8TBは WD80EDAZ-11TA3A0 という新たな型番のものに変わっているとの情報をお寄せ頂いた。調べたところ、HDD本体の製造は2020年2月頃には始まっていたもののようで、R/N は「US7SAN8T0」だった。ファームウェアのバージョンも「81.00A81」であったことから、設計はWD80EMAZ-00M9AA0と同等のものと言える。内蔵HDDが封入ガスがないものに戻ったことで、ヘリウム充填型のHDDを首尾良く手に入れるのは難しくなったようだ。

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DS218jのRAID1化

USB HDDへのバックアップ

まず、NASにセットされているHDDのフル・バックアップをとる。Synology純正の「Hyper Backup」パッケージを使うのが手っ取り早いけど、目的のデータを欠損なくバックアップできるのなら手段はなんでも良い。DiXiM Media Serverで記録したDTCP-IP対応データがどう取り扱われているのかよくわからなかったので、素直にHyper Backupを使うことにする。

ここでは、WD Elements 8TBのうちの1基をUSB 3.0コネクタに接続し、ファイルシステムを出荷時のNTFSのまま再フォーマットをせず、更に世代管理もせずにバックアップする。データが5TBくらいあったので、バックアップに30時間くらいかかった。イメージ・バックアップを使えば細かいファイルが圧縮されるので、たぶんもう少し速くなる。

差分バックアップで世代管理をすると好きな時点のバージョンに戻せるという利点がある一方、Synology NASでしか解読できないバックアップ・イメージを作ってしまうため、NASが故障した時にデータを復元できなくなる。そのため、NASが故障した時でもWindows PCにUSB HDDを直結してデータにアクセスできるようにNTFSのまま使用する。クライアントとしてWindowsしか想定していないのでNTFSでいいんだけど、Macとの連携も想定する場合はファイルシステムをexFATにしてフォーマットし直すなどの工夫が必要になる。

ボリュームの解放

バックアップが終わったら、ドライブ2に相当するボリュームを解放する。これをあらかじめやっておかないと、DSMはドライブ2のボリュームがまだ存在していると判断してしまうため、HDD2を単純に取り外しただけではボリュームの認識ができなくなり、NASの起動が完了しない。「STATUS」LEDがいつまで経っても点灯せず、使える状態にならないということ。

ドライブ2に相当するボリュームを削除したら、いったんNASをシャットダウンし、HDD2をWD80EMAZ-00WJTA0に交換して起動する。ここで、「DISK 2」のステータスLEDが緑色に点灯すれば、WD80EMAZに正しく電源が供給され、DS218jで使用可能であることが判明する。第二段階のハードルを越えることに成功した。SATA 3.3仕様のHDDでも問題なく使えるとは、SynologyのNASは本当によくできている。

RAID1への変更

ストレージ・マネージャで「RAIDタイプの変更」を選択し、RAID1への変更を指定すると、追加のドライブを指定するように指示される。

追加のドライブにWD80EMAZを指定すると、RAID1への変更と同時に、ミラーリングが開始される。ミラーリングが完了すると、RAIDタイプが「Basic」から「RAID1」に変更される。ただし、RAID1の場合はミラーリングできるサイズは最小容量のドライブに揃えられるため、ストレージ・プールの使用可能容量は3.63TBのまま変わらない。「SHR(Synology Hybrid RAID)」なら、すべての容量を使うことができるけど、Basicボリュームからの変更はできない仕様になっている。

搭載されているHDDを確認すると、ドライブ2に「WD80EMAZ-00WJTA0」が追加されているのがわかる。

ドライブ2の内容はドライブ1の内容と完全に一致している状態になったため、再びNASをシャットダウンし、今度はHDD1を取り外して、WD80EMAZに交換する。この時は、4TBのHDDをストレージ・プールから削除したり、解放したりする必要はない。つまり、わざとRAID1を崩壊させる。

DS218jに装填したHDD
番号 型式番号 R/N 製造日 備考
HDD1 WD80EMAZ-00WJTA0 US7SAL080 2019年6月8日
HDD2 2019年6月27日

2基ともHDDを交換し終わった状態が次の画像。

この状態でNASを起動すると、かなり派手なビープ音が鳴ってRAIDが劣化していると警告される。

劣化ボリュームのリビルド

ストレージ・マネージャを確認すると、ボリューム1及びストレージ・プール1が「劣化」していると表示される。「使用済みドライブ」は1基で、「未使用のドライブ」も1基であることを確認したら、劣化したRAIDボリュームを修復する。

劣化したRAIDストレージ・プールを修復する。リビルドが開始され、RAID1の劣化状態を解消する。

ドライブ1とドライブ2の双方が「WD80EMAZ-00WJTA0」に変更されていることを確認する。

リビルドが完了すると、次の画像のようになる。「ドライブサイズ」は7.28TBになっているけど、ストレージ・プールの容量は3.63TBのまま変わっていない。

「概要」を確認すると、4TBだったドライブ1のデータを損ねずにそのまま移行できていることがわかる。ただし、ストレージ・プールは3.6TBしかないので、使用率は87%と高いままになっている。

RAID1ボリュームの拡張

RAIDに関する一般的な解説を読むと、「RAID1は容量の大きいHDDに交換してもボリュームを拡張できない」といった説明がなされていることが多い。基本的にはそれで正しいんだけど、最近のNASは進歩していて、RAID1であってもHDDの物理容量に余裕があればボリュームを拡張できるようになっている。

アイ・オー・データ機器のNASでは「拡張ボリューム」という独自方式をRAIDを採用していて、RAID1相当の機能を持ちながら大容量のHDDへの拡張ができるということを売りにしているけど、Synology NASでは特殊なRAIDシステムを使うことなく、RAID1ボリュームを拡張できる。

ストレージ・マネージャでボリュームの「構成」を選択すると、ボリュームをHDDの最大容量まで拡張できる。

ボリュームの拡張はほんのわずかな時間で終わり、ストレージ・プールの容量が徐々に増えていって7.3TBまで拡張される。ボリュームの使用率はほぼ半分になり、44%になった。これで、8TBのRAID1システムへの移行が完了した。

USB HDDにバックアップしておいた、ドライブ2に入っていたデータをHyper Backupで書き戻し、RAID1に変更する前の状態と同じになるように復元する。DTCP-IPに対応した他社製NASの場合、録画番組をUSB HDDにバックアップできなかったりすることもあるけど、DS218jの場合は、録画番組をUSB HDDにバックアップし、それを復元しても正常に再生できる。ただし、USB HDDにバックアップされている録画番組を直接再生することはできない。

静音性は悪化

WD BlueをDS218jに装填して使っていた時は、本体正面のアクセス・ランプを見ていないとHDDが動いているのかどうかすらわからないくらい静かだったけれど、WD80EMAZに交換した後はアクセス中の騒音はかなり悪化した。RAID1にしているため、2基のHDDに同時に書き込むことで単純に騒音も倍になる。また、アクセスしていない時でもスピンドルが回っている間は唸っているような音が継続的に出る。スペック上は5,400rpmということになっているけど、騒音だけで言えば7,200rpmクラスのHDDと同等。

エンタープライズ・グレードのHDDといえば、サーバーで使用することを前提としていて、シャーシからの排熱に用いるファンや、サーバー室を冷やすための空調が相当な轟音を出すため、HDDの騒音程度は問題にならないことが多い。

保証期間が2年に限定されるため、WD80EMAZがエンタープライズ・グレードと同等の信頼性を有しているとは考えにくいけど、同じ筐体設計がWD Redの大容量モデルにも使われていることを考えると、コンシューマ向けのHDDも大容量モデルに関しては静音性を一時棚上げにしているとも言える。

関連記事

参考記事

Synology NAS DS218jをWindowsからネットワーク探索

Synology NASのDS218jをLAN内に設置してWindowsのネットワーク探索を使用しても、次の画像のようにNAS本体は「コンピューター」としては検出されない。デバイスやメディア機器としては検出されているけど、これらを選択してもNASの設定画面がWEBブラウザに表示されてしまうので、共有フォルダの一覧が表示されるわけではない。

Windowsを搭載したPCは自動的に検出されるけど、DS218jはLinuxベースのOSで動いているので表示されないのだろうかと思っていた。もちろん、エクスプローラーに「¥¥DS218j」と入力すれば共有フォルダは表示される。

なんとなくネットを眺めていたら、Synology NASをWindowsで検出できる方法があることがわかった。DSM(DiskStation Manager)の設定で「コントロールパネル」の「ファイルサービス」を選び、「詳細」タブを参照する。

WS-Discoveryの項目にある「Windowsネットワーク探索を有効化して、SMB経由のファイルアクセスを許可します」が初期状態では無効になっているので、チェックを入れて有効にする。「適用」ボタンを押すと間もなく設定が反映される。

Windowsに戻って再度ネットワーク探索をかけると、次の画像のようにDS218jが「コンピューター」の一覧に表示されるようになる。

参考記事

DAIVのCPUクーラーを忍者五に換装

最終更新:2019/10/05

2019年1月頃に買ったマウスのDAIV-DQZ530S1P-EX9にはIntel Core i9-9900Kが搭載されている。出荷時に搭載されていたCPUクーラーではi9-9900Kを相手にするには冷却能力不足なのではないかと常々思っていたことと、CPUの負荷が上がると不定期にファンから轟音を出すため、ストレスが溜まっていた。元気な時はまだいいけれど、体調が良くない時や疲れている時は不意に大きくなる騒音が辛く感じる。そこで、CPUクーラーの換装を計画した。

免責事項

お決まり文句だけど、たかがCPUクーラーの換装といえど、BTOパソコンの改造行為にあたるため、換装後はメーカーの保証は受けられなくなる。換装時にミスがあってCPUやCPUソケット(マザーボード)を破損してしまったとしてもそれは自己責任となる。本記事を参考にしてCPUクーラーを換装を試みて失敗したとしても当ブログは一切責任を負えないので了承のうえ、活用いただきたい。

現用CPUクーラーの性能

今回換装する92mmサイドフロークーラー。4本のヒートパイプを備え、まったく冷えないわけではないけど最大3,800rpmで回るためかなりの轟音。

右の写真が今回換装する対象のCPUクーラー。どうやら、マウス・コンピューターのオリジナル設計のクーラーらしいけど、とにかく情報が少ない。少なくとも、第6世代Core iシリーズ・プロセッサの頃にはNEXTGEARやLITTLEGEARのようなマウスのBTOパソコンに採用されていたもので、設計そのものは新しくない。

本当に銅製かどうかはわからないけど銅色の4本ヒートパイプを備えたヒートシンクの前に7枚のファンブレードを備えた92mmファンがネジ留めされている。測ったみたところ、ファンの厚さは一応25mmあったけど、フレームがないせいか目測だともう少し小さく見える。

ヒートシンクはマザーボードに取り付ける時の作業性を良くするために後背部が絞り込まれているので、ヒートシンクの体積とフィンの表面積を小さくする要因になっているように見える。

いずれにせよ、92mmサイズのファンとそれと同程度の大きさのヒートシンクでi9-9900Kは荷が重すぎるだろうな、ということは容易に想像がつく。DAIVはプロフェッショナルのクリエイターの要求にも応えられるパソコンを売り文句のひとつにしているけど、CPUがハイエンドでもCPUクーラーがエントリーレベルのものではその性能をプロフェッショナルが満足するレベルで発揮できるとは思えない。

冷却性能(電力制限95W)

とりあえず、現用CPUクーラーの力量を整理しておく。現用品を取り外してしまってからではデータ採りも容易にできなくなるので、比較対象にする記録を残しておかないと後悔の元になる。

まずは、短期電力制限(Short Duration Power Limit)を200W、長期電力制限(Long Duration Power Limit)を95W、つまり定格運用の設定にしてLightWave 2015のレンダリングで負荷試験をしてみる。LightWaveの起動直後とシーン・ファイルのロード直後はCPUの負荷が安定しないので、しばらくアイドリングしてからグラフの1:00ちょうどのタイミングでレンダリング開始した。計測と記録はHWiNFO64で行った。室温は夏場だったので30℃前後でやや高め。

水色:CPUコアクロック 黄色:CPUパッケージ電力 赤色:CPUパッケージ温度

グラフを見ると、1:00の直後からCPUのコアクロックが4.7GHzのあたりで平坦化、ラジオシティの演算が終わったところで8コア16スレッドでのレンダリングが始まり、消費電力が急上昇する。電力が高い状態は長くは続かないので、すぐに95Wまで下がって安定する。95Wの電力制限がかかっている間はコアクロックは4.1~4.2GHzで推移する。

肝心のCPU温度は電力が上昇した時に95℃まで上がっているけど、その後は75℃前後で推移している。熱設計電力(TDP)である95Wに制限して定格運用する分には現用品のCPUクーラーでもとりあえず冷やせていることにはなる。ベースクロックは3.6GHzだから、これでもターボブーストはかかっていることにはなるけど、i9-9900Kを買ってこの結果で満足する人は少ないだろう。

冷却性能(電力制限200W)

次に、短期電力制限(Short Duration Power Limit)を200W、長期電力制限(Long Duration Power Limit)も200W、つまりオール・コアが定格最大の4.7GHzで張り付く設定にしてLightWave 2015のレンダリングで負荷試験をしてみる。他の条件は上の試験と同じ。

グラフを見ると、1:00の直後からCPUのコアクロックが4.7GHzのあたりで平坦化、8コア16スレッドでのレンダリングが始まった後、消費電力が150Wを超えた状態で推移する。電力が150Wを超えている間はコアクロックは4.7GHzで推移するけど、後半からサーマル・スロットリングがかかり始め、4.6GHzまで低下しているところが現れ始める。

CPU温度は右肩上がりに上昇し、ほぼ100℃に近い温度で推移している。定格最大ではあるものの、CPUのパワーを最大限引き出そうとすると現用のCPUクーラーではまったく冷やせていることにはなる。Tjmaxの100℃に近くなった時にCPUの破損を防ぐための安全機構が有効になっていなければCPU温度は際限なく上がっていってしまうことを表している。クーラーのファンが3,800rpmで回って一生懸命風を送ってはいるんだろうけど、ヒートシンクが受け止められる熱の容量が限界に達してしまっていて風を当てたくらいでは間に合っていないと予測される。安全機構が働いているから即座にCPUの破損につながるわけではないけど、こんな状態で常用していたらCPUの寿命は確実に短くなっていくだろう。

VRMを流れる電流はCPU電圧が1.3Vとして、155Wの時で119.2Aくらい。Z390-S01の8フェーズのVRMでこれを受け止めるわけだから、1フェーズあたり14.9Aくらい。MOSFETの損傷を心配するレベルではないけど、どうせOEMマザーボードなので壊れたところでそれほど惜しくはない。

CPUクーラーの取り外し

CPUクーラー本体の取り外し

何はともあれ、CPUクーラーの本体を取り外す。スプリング・スクリューにはなっていたけど、トップフローのCPUクーラーによくあるような取り付け方法で、4点留めになっている。グリスが固着しているようなこともなかったので簡単に取り外せた。

CPUクーラーを取り外した直後のCPU。ソケットのカバーでCPUのヒートスプレッダを押さえているのでクーラーを取り外したと同時にCPUも一緒に外れてしまうようなことはない。
CPUクーラーの受熱ベース側。銅色のヒートパイプと銀色の受熱ベースの間に溝があって、そこに集中してグリスが入り込んでいるのがわかる。


CPUグリスにはダイヤモンドグリスが使われているはずだけど、見た目ではわからない。ヒートスプレッダを若干はみ出しているものの、厚すぎずもなく、少なすぎもせず、お手本のような塗り方だった。さすがにBTOパソコンを長く作っているマウスだけあって、組み立て作業者の技能は高いようだ。CPUに残っているグリスに縦縞が入っているように見えるのは、CPUクーラーの受熱ベース側に凹凸があって、その溝の部分だけグリスが厚くなっているため。

まだ購入してから7ヶ月くらいしか経っていないので、まだグリスが乾燥するまでにはなっていなかった。実際のところ、グリスが乾燥すると冷却性能が極端に低下するというのは一種の民間信仰みたいなもので、CPU側のヒートスプレッダとクーラー側の受熱ベースプレートの目に見えないくらいの凹凸を埋め合わせられていれば十分なものらしい。もともとシリコンを基剤にした普通のグリスは金属に比べれば熱伝導率が極めて悪いもので、シリコンが乾いてしまったくらいならそれほど性能に影響が出るものではないそうだ。もちろん、オーバークロック用の特殊なグリスなら短期間での冷却性能の悪化というのは起こりえるのかもしれないけど。

CPUグリスの拭き取り

リムーバーをあらかじめ買っておいたので、ウェスに適量含ませてグリスを拭き取る。グリスを綺麗に拭き取り終わるとi9-9900Kのヒートスプレッダが見えてくる。そんなに頻繁にお目にかかれるものでもないし、すぐにまたグリスを塗って塞いでしまうので、記念撮影しておく。R0ステッピングはまだ出ていなかった頃のものなので、S-Specは当然「SRELS」(P0ステッピング)になっている。

ちなみに、リムーバーはできれば電子機器用のものがいいけど、無水エタノールでも代用できる。無水エタノールは一般の薬局でも売っているので入手しやすいのが特徴。ただ、茶色の薬瓶に入った500mlの大瓶しかなくて小瓶がなかったりするので、まともに買うと結構な出費になる。油性マジックで書いてしまったラクガキも消せるので清掃用品としても役に立つんだけどね。

バックプレートの取り外し

次に、CPUクーラーのバックプレートを取り外す。DAIVのケースは設計があまり新しくなく、CPUのバックプレートにあたる位置のメンテナンスホールのカットアウトの面積が小さい。バックプレートがほんのわずかだけどカットアウトの裏側に回り込んでしまっているので、マザーボードを一度取り外してからでないとCPUクーラーの換装はできない。

BTOパソコンはパーツの交換を前提としていないので、ケースの設計を改善する必要なんてないと考えているんだろうけど、とにかく作業性が悪い。マウスのBTOパソコンを二度と買いたくなくなるくらい中途半端な設計だと思った。

このバックプレートがまた取り外しにくくて、組み立て時の作業性を良くするために両面テープでマザーボードの裏に貼り付けられていた。トップフローのCPUクーラーなど軽量級のヒートシンクを使う製品の場合は作業性を良くするためにバックプレートを両面テープで仮止めしてからクーラー本体を取り付けるようになっているものも多い。ただ、自分で取り付けたものではないので両面テープの位置を把握していないため、とにかく力任せに引き剥がすしか方法がない。

忍者五への換装

現用のCPUクーラーの部品を全部取り外し終われば忍者五の取り付けにかかれる。まずはバックプレートを取り付けるわけだけど、できるだけ手間を減らしたかったので、マザーボードのネジを8本すべて外した上で基板を少し浮かせた状態で作業しようとした。

忍者五のバックプレートにはマウンティング・プレートを取り付けるためのネジと、そのネジをCPUソケットの規格に合わせた位置に固定し、バックプレートがマザーボードの裏面を傷つけないようにするためのゴム製のクリップがあらかじめ組み付けられている。ところが、このクリップがとても外れやすく、そのうちひとつが作業中に脱落してケース内で一時行方不明になった。ケースを立てたままでのCPUクーラー換装作業は難易度が高いと言われる理由をようやく理解した。脱落したクリップは5.25インチベイの中に落ちていたのをすぐに発見できたのでまだ良かったけど、紛失したり、簡単に拾えないところに落ちていたら面倒なことになっていた。

バックプレートの取り付けさえできてしまえば後は楽勝だろうと思ってマザーボードを再度ネジ留めしてしまったのが良くなかった。忍者五はとにかくヒートシンクが大きく、取り付けにひと苦労した。マウンティング・プレートのネジ穴がヒートシンクのフィンが邪魔でほとんど見えないので、ドライバーでスクリューを回した時の手の感触だけを頼りに手探り状態でヒートシンクを固定するのはなかなか難易度が高かった。少し締め過ぎた感もある。

マザーボードを裸の状態で組み立てられれば苦労はしないんだろうけど、今回はすでに組んであるBTOパソコンの換装なので、作業領域がとにかく狭かった。ScytheのCPUクーラーはヒートシンクにワイヤークリップでファンを取り付けるのが伝統だけど、ヒートシンクを先に取り付けてしまうと天板側のワイヤークリップの取り付け、取り外しが困難になる。ヒートシンクに先にファンを取り付けてからCPU上に設置することになるので、ファンを交換したくなったらヒートシンクごと取り外してからでないと作業できない。

忍者五のヒートシンクとケースのトップの間にはほとんど隙間がない。指を入れてもワイヤークリップには届かないし、細い工具を差し入れたとしてもワイヤークリップを引っかけるのに必要なテンションはかけられない。

そんなわけで、標準装備の800rpmのファンでの冷却性能もせっかくだから調べてみようと思ってたんだけど、ファンを交換するたびにヒートシンクを取り外さないといけないので面倒くさくなった。重量級のヒートシンクを何度もグリグリやっているうちにCPUソケットのピンを曲げてしまうのではないかと心配になったのもある。

ファンの換装

NF-P12 redux – 1700 PWMのパッケージ。ケースファンにここまでしなくてもいいのでは、と思うくらい格好いいデザインの豪華な箱に入っている。

忍者五は標準構成では800rpmの低速回転のファンを2個使うようになっているんだけど、さすがにi9-9900Kを冷やすのに800rpmでは心もとなく感じた。忍者五のパッケージに書いてあった800rpmファンの仕様を参照すると43.03CFMなのでケースファンとしての風量はそこそこだけど、CPUクーラーの冷却ファンとして使うには物足りない。静音性を重視して800rpmにしたのだろうし、同回転数でPWMファンというのもScytheの製品の中でもレアなんだけど、素直に1200rpmのファンでも良かったような気もする。

そこで、吸気側のファンを自作PCユーザーに定評のあるオーストリアのNoctua製ファンに換装した。Noctuaのケースファンはおおまかに風量重視型と静圧重視型の2種類に分類できるんだけど、回転数の高いものを選べば風量はある程度稼げるので、静圧重視型にした。

Noctuaのケースファンというと、NF-A12x25が有名だけど、ケースファンとは思えないほどの価格なので、廉価版の「NF-P12 redux – 1700 PWM」を選んだ。四隅の防振ラバーパッドがついていなかったり、回転数を調整するLNA(Low-Noise Adapter)と呼ばれる変換ケーブルがついていなかったりしてコストダウンしてある。Amazonで買うと高いけど、PCパーツ・ショップから購入すれば1700円くらいで買える。日本国内の輸入販売はScytheが担当している。

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排気側のファンはKazeFlex120 RGB PWM 1200rpmを使った。RGBである必要はまったくないんだけど、無限五 TUFで使わなかったファンがあったので、それを単に流用しただけ。写真に写っているファンの四隅が黄色なのはTUFゲーミングのブランドカラーであるため。どうせサイドパネルで塞いでしまうので、色はどうでもよかったのでそのままにしてしまったんだけど、忍者五に付属していたファンの防振ラバーパッドと交換しても良かったかな、と後になって思った。

吸気側のファンと排気側のファンの回転数が異なるので、忍者五に付属していたY字分岐ケーブルは使用しなかった。個別に制御できたほうが何か問題があった時に対処しやすい。そもそも、マザーボードのファン・コネクタは余り気味なので、NF-P12 redux – 1700 PWMを「CPU_FAN1」に、KazeFlex120 RGB PWM 1200rpmを「PUMP_FAN1」に接続した。

二重反転ファン

NF-P12 redux – 1700 PWMが反時計回り、KazeFlex120 RGB PWMが時計回りに回転するので、二重反転ファンを構成できる。ファンから出る風は、回転するプロペラから出るものである以上、完全に直進するものではなく、多少は捻れている。風が捻れていると風速のベクトルのうち、ヒートシンクのフィンに垂直方向に当たる成分があることになるので、フィンの間で乱流が起こって渦を巻き、排気方向へのエアーの抜けが悪くなる。そこで、吸気側のファンで反対方向の捻りを加えてやることで風の直進性を良くする効果を狙う。また、同じ方向に回るファンを二重に設置すると共振して騒音が大きくなる傾向にあるので、騒音対策にもなる。

一般的な製品では反時計回りのファンがほとんどなんだけど、Scytheの製品は伝統的に時計回りだった。最近、スリムタイプの15mm厚のケースファンが発売されたんだけど、風魔弐で使った薄型プロペラの金型を転用しているようで、スリムタイプは反時計回りに変わっている。

品名 回転数 風量 静圧
吸気側 Noctua NF-P12 redux – 1700 PWM 1,700 rpm 70.74 CFM
(120.2 m3/h)
2.83 mmH2O
排気側 Scythe KazeFlex120 RGB PWM 1,200 rpm 51.17 CFM
(86.9 m3/h)
1.05 mmH2O

忍者五の性能

取り付けが終わったのでとりあえずサイドパネルを閉じる前に電源を入れてみた。NF-P12 redux – 1700 PWMには防振ラバーパッドがついていないのでどうなるか少し心配だったけど、防振しないといけないほどNoctuaの加工精度は悪くなかった。ベアリングも良い物を使っているようで、軸がぶれているような感じはまったく見受けられなかった。

冷却性能(電力制限95W)

まずは、短期電力制限(Short Duration Power Limit)を200W、長期電力制限(Long Duration Power Limit)を95W、つまり定格運用の設定にしてLightWave 2015のレンダリングで負荷試験をしてみる。室温は30℃前後でほぼ同じ。

忍者五に換装後のCPU温度は95Wの電力制限がかかっている間は63℃くらいで推移している。取り外したCPUクーラーに比べて12℃ほど下がった。

冷却性能(電力制限200W)

次に、本丸である定格最大の4.7GHzでの冷却性能を測る。短期電力制限(Short Duration Power Limit)を200W、長期電力制限(Long Duration Power Limit)も200Wの設定でLightWave 2015のレンダリングで負荷試験をしてみる。他の条件は同じ。

忍者五に換装後のCPU温度は8コア16スレッドでのレンダリングが始まったあたりから約80℃くらいに抑えられている。当然ながらサーマル・スロットリングも働かず、8コアすべてのコアクロックが4.7GHzに張り付き、ほぼ完全に平坦化している。室温が30℃くらいあったことを考えると、真冬はもう少し余裕が出るのではないかと期待してしまう。

少し意外だったのが、8コア16スレッドでのレンダリングが始まった後、消費電力が145W前後で推移していて150Wを超えなくなったこと。コアクロックは4.7GHzになっているので処理速度に差が生じるとは考えられないし、消費電力が高いほどCPUの能力が良くなるわけでもない。

試しに、ロード・ライン・キャリブレーション(Load Line Calibration、LLC)を「Auto」からもっともアグレッシブな設定で下がろうとする電圧をむしろ上げようとする「Mode 1」に変更したみたらレンダリング中に画面が真っ黒になってPCがダウンしてしまった。そこで、電圧が一定になるように維持する「Mode 4」では消費電力が170Wを超えるようにはなったものの、CPUの発熱が尋常ではなくなり、忍者五でもCPU温度が100℃近くになってしまった。LLCは「Auto」にしておくのが無難なようだ。

冷却性能まとめ

上記の結果からCPU温度の推移だけ抜き出したのが次のグラフ。2:00~3:00あたりがCPUにフルロードがかかっている部分。

何はともあれ、大型のヒートシンクと大口径のファンを使ったことで17℃もの改善がみられ、余裕をもって4.7GHz常用ができるようになった。発熱の問題が解消されたことで心配事がなくなり、スッキリした。4.7GHzで回せない鬱憤も晴らせたので精神衛生的にも好ましい効果と言え、結果的には換装してよかった。

定格最大4.7GHzのパフォーマンス

LightWave 2015でのレンダリング時間は約10秒ほど短縮できた。率にして9%くらいの改善。2分切りも期待したけど、あとわずがのところで1分台には届かなかった。ただし、これは一番結果が良かった時のスクリーンショット。原因は不明なものの、ある試験では条件によってはレンダリング時間があまり変わらないという結果もあった。メモリがDDR4-2666なのも影響しているかもしれないけど、忍者五はメモリとの干渉クリアランスが厳しく、背の高いヒートスプレッダを装備したオーバークロックメモリを搭載して試験するのは難しい。

LightWave 2015
CPU 総レンダリング時間 パフォーマンス 備考
Core i7-860 685.2秒(11分25秒) 1.00倍 DDR3-1333
Core i7-9700K 148.9秒(2分28秒) 4.60倍 DDR4-3600
Core i9-9900K(95W) 132.4秒(2分12秒) 5.17倍 DDR4-2666
Core i9-9900K(200W) 121.1秒(2分1秒) 5.66倍 DDR4-2666

換装後

忍者五に換装した後のDAIVケースの内部の全体写真。マザーボードがZ390-S01ならとりあえず取り付けることは可能なので、ヒートシンクの大きさが気になって躊躇している人には参考になるかもしれない。CPUソケットの位置があと1cm左だったらリア側のケースファンと干渉してしまうところだったので、ほっとしているところ。

CPUまわりの設計がほぼ同じのMSI「MPG Z390 GAMING PLUS」や「Z390-A PRO」でも問題なく設置できるだろう。

付属品の不備

忍者五に付属していたワイヤークリップ。上のものが本来使うべきワイヤークリップで、下のものが間違って入っていたと思われるワイヤークリップ。よく見ると、縦方向のワイヤーの長さが違う。

付属品を袋詰めした時のミスだと思うんだけど、ワイヤークリップが1本だけサイズの異なるものが入っていた。ファンを取り付ける時にかなりの強さで引っ張ってもクリップが一向にヒートシンクのフィンに引っかからないのでおかしいと思って確認したら、他のクリップと長さが異なっていた。

おそらく、風魔弐の15mm厚ファン用のワイヤークリップか、改良前の旧仕様のものだと思うんだけど、長さが少し違うだけで片方だけ見た時に判別が困難な上、型番を書くところもないただの針金なので、仕様が違うものが紛れ込んでいるのに気が付かずに袋に入れてしまったのだろう。機能上必要なくても判別のためにクリップの形をわざと変えるとか、もう少し工夫が必要ではないかと思った。

たまたま無限五をデュアルファンにするために予備でついていたワイヤークリップを持っていたのでなんとか事なきを得たけど、忍者五が初めて購入したScythe製のCPUクーラーだったらファンの取り付けができずに詰んでいたところだった。付属品はよく確認したほうがいいようだ。

Scytheに連絡すればワイヤークリップくらいなら郵送で交換してくれそうな気はするけど、余計な手間はできるだけ避けたいのはお互い様なので、風魔弐などの25mm厚のファンを使わないラインナップを増やした時やクリップの設計を変更した時にパーツの管理方法も併せて考えて欲しかったところだ。

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ASRock Z390 Extreme4

最終更新:2019/10/22

ASRock Z390 Extreme4は、ASRockのIntel Z390チップセット搭載マザーボード。

同価格帯の同社製のZ390 Phantom Gaming 6の影に隠れてしまいがちだけど、7セグメントLED表示によるステータス表示や2.5Gbit LANがないくらいで、非常にコストパフォーマンスに優れた製品。

マザーボード全体もグレー系の配色でまとめられており、Phantom Gamingのレッド系中心の配色が好みでない場合は特に有力な候補となる。PCケースのサイドパネルが透明でない場合はマザーボードの色なんてどうでもいいかもしれないけど、マザーボードが見える場合は基板の色は意外に重要。

主要ハードウェア

CPU用のPWMの電源フェーズは12フェーズあり、ミドルレンジのマザーボードとしては堅牢な電源回路を有しており、Core i7-9700Kやi9-9900Kの5.0GHzまでのオーバークロックなら余裕でこなせる。

他にも、AMDのCrossFire以外にもNVIDIAのSLIが可能であったり、追加でASMedia ASM1061 SATAコントローラ・チップを搭載しており、Z390チップセットと合わせて最大で8基のSATAドライブを接続可能であったり、ミドルレンジとは思えない盛りだくさんの仕様になっている。Type CのUSB 3.0フロント・ポートも有しており、USB4が一般化するまではType C接続の高速伝送も可能になっている。

その他の細かいハードウェア仕様は省略する。マニュアルをダウンロードして参照すれば一般的な仕様はわかる。

メモリ互換性

G.SKILL製メモリとの互換性は良好

メモリはG.SKILLのTrident Z RGB F4-3600C19Q-32GTZRB(SK Hynix C-die)を使用している。

ハイクロック・メモリは、どのマザーボードでも表記どおりのクロックで動作すればラッキーくらいのものと考えるのがコンセンサスを得ているようだけど、最初はSPDの2133MHzで認識しているようだったので、XMPを読み込ませてみたら、3600MHzで一発で認識した。Windowsも問題なく動作している。

4枚挿しすると、ハイクロック・メモリでただでさえ忙しいCPUのメモリ・コントローラの負荷が単純に倍になるので、正常に動作しなくなる可能性が高くなるんだけど、ASRockのマザーボードはハイクロック・メモリ4枚挿しでも何事もなかったように動かせている。

自作ユーザーにはMicron製やSamsung製のDRAMチップが根強い人気があるようだけど、SK Hynix製のDRAMでも遜色なくなってきたようだ。もっとも、CL19-20-20-40とかなり緩めなので、タイミングがそれほどシビアでないというのもありそうだけど。

UDIMM 32GBメモリ・モジュール対応

Unbuffered DIMMの32GBメモリモジュールに対応している。すべてのDIMMスロットを32GBモジュールで揃えればECCメモリを用意しなくても物理メモリ128GB環境を構築できる。ただ、ASRockのマザーボードは「変態仕様」として有名で、他社製のZ390マザーボードがUDIMMにしか対応していないのに対して、ECCメモリにも対応しているので、UDIMMにこだわる必要も特にないんだけど。

試した人がいるようなので、UDIMMで128GBメモリ環境構築は可能なことはわかっているけど、SamsungのM378A4G43MB1-CTDは、2019年10月現在でも実売2.5万円前後とまったく安くなっていないので、UDIMMで128GBメモリ環境を整えるのもそれなりに費用がかかる。

サムスン製・1枚32GBのデスクトップ向けDDR4メモリのお話

デスクトップPC向けのDDR4-2666 32GBモジュールを手に入れたので紹介。

Wi-Fi/Bluetooth

CNVi接続によるWi-FiやBluetoothの実装も可能で、高感度アンテナを設置するためのSMAサイズの穴があらかじめ用意されているため、拡張性も確保されている。アンテナ・ホールなんて、PCIスロット用のブラケットに穴をあけるだけでいいのでどこにでもありそうなものだけど、SMAサイズに限定すると入手は困難だったりする。この手の金属部品をたくさん作っている長尾製作所も作ってない。

ただ、Wi-Fiのアンテナを増設するにはリアパネルのI/Oカバーを取り外してアンテナ・ケーブルを引き込まなければならなかったり、PCを組んでしまってからの増設は意外と手間なので、あまり現実的ではなさそう。Bluetoothなんて、USBポートにアダプタを追加すればいいだけなので、CRFモジュールを使うメリットは設置場所に制限のあるノートPCくらいにしかないのかもしれない。

音質

HDオーディオ・コントローラにはRealtek ALC1220が採用されている。正直、オンボードのオーディオ・コントローラなんてどれも大差ないだろうと最初は思っていた。ところが、実際にヘッドホンを接続して音楽を流してみると、それまで使っていたALC892とは比較にならないほど高音質であることに驚いた。色々シミュレーションしたり、ソフトウェア的に補間しているところはあるようだけど、それもALC1220の地力があってこそできる業。過去に収録したCD音源をアップコンバートして疑似ハイレゾ音源として再生することも可能。

もっとも、音質を云々できるほど耳は良くないし、音痴の自覚もあるので、オンボードのオーディオ・コントローラで満足しているようなら音質に非常にこだわる層からすれば安上がりな耳と言えるのかもしれない。

Wake on LAN(WOL)を有効にする方法

LANを経由してルーターからS5ステートにあるPC、つまり電源は接続されていて通電はしているけど起動していない状態からPCを起動するWake on LANを有効にするには、BIOSの設定画面を呼び出し、「ACPI Configuration」メニューの「PCIE Devices Power On」を「Enable」に設定する。

次に、「Boot」メニューの「Boot From Onboard LAN」を「Enable」に設定する。

ここまでBIOSの設定が終了したら保存していったん終了する。Windowsが起動したら、「コントロール・パネル」の「電源オプション」から「電源ボタンの動作を選択する」を選ぶ。

「現在利用可能でない設定を変更します」をクリックし、高速スタートアップを無効(チェックをはずす)にする。

高速スタートアップを無効にするとなんでWOLが使えるようになるのかはよくわからないけど、ASRockのマザーボードはそういう傾向がある。MSIのマザーボードでは高速スタートアップが有効のままでもWOLで起動できる。

付属ソフト

ハードウェアの仕様としては豪華の一言で文句のつけどころがないけど、ASRock純正のソフトウェアの使い勝手はあまり良いとは言えず、いまひとつかゆいところに手が届かない仕様になっている。特に、RGB LED制御用のPolychrome RGBで数値指定ができない点は残念だった点のひとつ。

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旧メインPCのリフレッシュ (1)

最終更新:2020/04/25

いよいよ旧メインPCをリフレッシュして性能の底上げをはかり、サブPCでありながら優れた演算能力をLAN経由で提供させることで、ネットワーク・レンダリングの実現への第一歩を踏み出す。

要は、パーツをかき集めてPCを自作するわけだけど、感想から先に述べると、パーツの選定や組み立て作業が非常に楽しかった。学生の頃に1円でも安く、Windowsが動くPCを手に入れたくて自作PCに手を出したわけだけど、その経験が今になって役に立った。その当時に比べれば自作用のPCパーツも手頃で高性能なものが手に入りやすくなった。昔はケースファンもサイズさえ合っていれば回転数や静音性なんてのは二の次で選択肢も少なかった。今ではPCケースやケースファンだけでも数え切れないほどの種類があって希望のものを絞り込むのも大変なくらい。

BTOパソコンの場合は、完成品ゆえに自分はお金を出しただけで何も苦労していないために、長所よりも欠点ばかりが気になってしまうけど、自作PCなら欠点を最初から承知のうえで組んでいるので欠点も含めて愛着すら感じるようになる。目的のために思い切って削ってしまう性能も選択できるためコストの調整も容易で、後に強化したくなったら当初は備えていなかったパーツを追加すればいいのでまだ楽しみも残る。

電源仕様

PCを自作する上で根幹となるATX電源は旧PCから流用する。新しい電源を買ってもいいんだけど、旧電源を流用してもどの程度までまともなPCを組めるのか試してみたかったのもある。流用する電源は古いBTOパソコンに搭載されていたHEC-500TE-2WXという、今では値段もつかないような年代物。

電源の仕様は次の表のとおり。規格はATX12V Ver.2.3。Haswell世代以降のC6/C7ステート(12V 0.05A)には対応していないけど、TDP 95WくらいのCPUで過度なオーバークロックをしなければまだ使える電源。C6/C7ステートをBIOSで無効にしてスリープ機能を使わなければいいだけの話。ただ、12Vが2系統あるため、1枚で消費電力が200Wを超えるようなハイエンド・クラスのグラフィックス・カードを搭載すると容量不足に陥る可能性がある。搭載するとしても、せいぜい150Wが限度だろうし、グラフィックス・カードを搭載したいなら12V 1系統の新しい電源を買ってしまった方が無難。

電源仕様
モデル +3.3V +5V +12V1 +12V2 -12V +5Vsb 定格出力
HEC-500TE-2WX 24A 15A 25A 18A 0.3A 2.5A 500W
120W 444W 3.6W 12.5W

当初の予定構成

最初はCPUにオーバークロックができない代わりにTDPが65Wと控え目のCore i7-9700を選び、B365チップセット搭載のMicroATXマザーボードに載せ、メモリもバリューモデルにして2×8GBで1万円もしないものにして使う予定だった。当初予算は7万円程度。

旧メインPCのマザーボードはMSIのH55M-P33というモデルだったんだけど、旧PCケースはミニタワーで奥行きがあまりないタイプで、シャドウベイに3.5インチHDDを搭載するとマザーボードのATX電源コネクタやDIMMスロットの上に被さってしまっていた。また、92mmサイズのトップフローCPUクーラーとの干渉マージンもギリギリだった。寸法がかなりシビアだったので、旧マザーボードの部品配置を参考に、PCケースを買い換えないと仮定して、MOSFETのヒートシンクが小規模でCPUソケットがPCI Express x16スロットの右端と並ぶものを探していたら、ASUSのPRIME B365M-Aが該当する唯一の機種だった。

ASUS Intel B365 搭載 socket1151対応 マザーボード PRIME B365M-A 【MicroATX】
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Asustek (2019-04-19)
Intel Core i7 9700 デスクトッププロセッサ 8コア 4.7GHz LGA1151 300シリーズ 65W
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参考価格: ¥ 44,980 (2019-08-10)
Intel (2019-05-15)

ところが、いざi7-9700が発売されてみると、以前から指摘されていたIntel CPUの脆弱性を緩和することを目的として最初からR0ステッピングで製造されていて、既存のシステムに導入しようとするとOSの再インストールが必要になることが判明した。脆弱性への対策なので仕方ないと言えば仕方ないけど、中途半端な時期に中途半端なものを投入してくれたものだ。

問題とされている脆弱性も、それを悪用するには相当に高度な技術が必要で、一般消費者が不特定多数の攻撃者からサイドチャネル攻撃を受けて損害を被る可能性は限りなくゼロに近い。心配すべきなのは、例えばVPNのパスワードを生成するワンタイム・パスワード・ジェネレータを持っているなど事業所のファイヤーウォールを通過する権利がある組織内部の人間が攻撃者になった場合で、ファイヤーウォールを突破する手立てもなく無作為にあらゆるIntel CPUのシステムに侵入できるわけではない。P0を選ぶかR0を選ぶかはユーザーの任意として、無印型番のCPUもとりあえずP0ステッピングでリリースして欲しかったものだ。

旧PCのシステムもだいぶ使い込んで不必要に大量のデータを抱え込んでいてパフォーマンスが落ちていると言えばそうなんだけど、喪失すると困る重大な情報がシステム・ドライブの普段意識していない領域に格納されていることもあるのでOSのクリーン・インストールだけはどうしても避けたい。

もちろん、システム・ドライブのクローンをとっておいて、重要なデータがあることが判明したらそこからサルベージすればいいんだけど、レジストリに保存されている設定などの復元にはそれなりに手間がかかるので、そこまでしてB365を前提としたPCを組む必要があるのだろうか、と意欲が喪失してしまった。

また、8コアのCPUでなければ所期のパフォーマンスを発揮できないことが予想されたので、i7-9700の代わりにCore i5 や i3 を採用することはできず、B365チップセットを採用した安価なシステム構築は諦めざるを得なくなった。安上がりに組み上げることだけが今回のPCリフレッシュの目的ではないというのもある。

構成変更

P0ステッピングで製造されている8コアCPUは、i7-9700K  か i9-9900K しかなく、コストパフォーマンスを考慮してi7-9700Kを選ぶことにした。K型番を選ぶということは、Z370かZ390のマザーボードにしないと十分な性能を発揮できないということ。

旧PCケースの流用にはCPUソケットの位置が重要であったため、唯一の選択肢だったPRIME B365M-Aを使えなくなったことでMicroATXである必要性もなくなってしまった。

そこで、次のような要求を再設定してパーツ選定をやり直した。どうせ最初からやり直すなら、年甲斐もなく「光り物PC」にもチャレンジしてみることにした。

  1. マザーボード
    • CPUの消費電力制限を解除しても不安定にならない堅牢な電源回路を持つこと。
    • Intel LANコントローラ・チップを搭載していること。
    • Wi-FiやBluetoothを最初から内蔵している必要はなく、後の拡張性のためにCNViスロットが備えられていればいい。
    • 高音質オーディオ・コントローラ・チップを搭載していること。
    • PCIe 3.0 x4接続のM.2 NVMe SSDを1基以上搭載できること。
    • SATAドライブを最低4基接続できること。
    • フロントUSBポートをUSB 2.0/3.0それぞれ2ポート分以上搭載していること。
    • 可能ならばUSB Type CのフロントUSBポートを搭載していること。
    • 可能ならばThunderbolt AICコネクタを搭載していること。
    • パラレル・ポートやシリアル・ポートは必要ない。
    • イルミネーションも楽しんでみたいのでRGB LEDを制御可能であること。
  2. CPUクーラー
    • i7-9700Kを最大定格4.6GHzで動作させても冷やしきれる空冷CPUクーラー。
    • ファンだけでなく、ヒートシンクにもRGB LEDを内蔵していること。
  3. メモリ
    • メモリ・クロックは2666MHz以上。容量は16GB以上。
    • RGB LEDのライトバーを内蔵したヒートスプレッダ付きメモリ・モジュールであること。
    • RGB LEDヘッダからではなく、DIMMスロットからSMBus経由でLED制御できること。
  4. PCケース
    • 組み立てやすく、メンテナンス性に優れていること。
    • 搭載コンポーネントに重なりが少なくアクセスしやすいこと(特定のパーツにアクセスするために他のコンポーネントを取り外したりしなくていいこと)。
    • HDDの厚さの違いのようなちょっとした規格違いに影響を受けるようなことがなく、パーツを選ばず汎用性が高いこと。
    • 剛性や工作精度に優れ、長く使えること。スチールが主材料であること。
    • フロントUSB 2.0/3.0ポートをそれぞれ2ポート搭載していること。
    • 可能ならばUSB Type CのフロントUSBポートを搭載していること。
    • 3.5インチHDDを2基以上搭載できること。
    • 一般的なサイズの内蔵5.25インチ光学ドライブを搭載できること。
    • 中型~大型の空冷用CPUヒートシンクが収まること。
    • 内部のRGB LEDが見えるようにアクリル又は強化ガラス製のサイドパネルであること。

パーツ選定

CPU

CPUはi7-9700Kと決まっているけど、R0ステッピングのものが既に出回っているので、P0ステッピングのものを選ばなければならない。実店舗を持っているPCパーツ・ショップの場合はこだわり派向けにP0とR0を別の箱に区別して販売してくれていることもあるけど、通販などでは一般的にはステッピングを指定して注文することはできない。大手ほどその傾向が強く、P0が送られてくるかR0が送られてくるかは運任せになる。

そういった場合、価格は大手ほど安くはないけど、あえて小規模な店舗を選ぶと、ある程度融通をきかせてくれて発送する前にステッピングを確認してから送ってくれるところがある。もちろん、P0の在庫が尽きている場合は確認してもR0だけど、問答無用でR0を送りつけてくるようなことはないので、特定のステッピングを入手したい場合は小規模店舗や中古販売店を狙ってみるのもありだ。

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インテル (2018-11-02)

マザーボード

最近はMSIが続いていたけど、ASRockも気になっていたので、ASRockのZ390チップセット搭載マザーボードから選定することにした。

ASUS、MSI、GIGABYTEも含めればいくつか選択肢はあったけど、すべての要求を満たすようなマザーボードはハイグレードのミドルレンジかハイエンド・クラスになってしまう中、ASRockではミドルレンジ・クラスにも要求に合致するものがあった。「Z390 Extreme4」か「Z390 Phantom Gaming 6」の二者択一になった。

Z390 Phantom Gaming 6は7セグメントLED(古典的なデジタル時計方式の数字表示器)を採用したデバッグ機能やオンボードに電源ボタンとリセットボタンを備えているなど、PCケースに不具合があった場合やベンチ板での検証にも便利な装備があることが魅力。しかし、そんなに頻繁にパーツを組み換える予定がなかったことと、コンシューマ向けのルーターやハブには対応製品がほぼないこともあり、2.5ギガビットLANは必要ないと思われたので、Z390 Extreme4に決定した。

ASRock Intel Z390 チップセット搭載 ATX マザーボード Z390 Extreme4
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ASROCK (2018-10-09)

CPUクーラー

海外製のCPUクーラーではヒートシンクにもRGB LEDを内蔵しているものが結構見受けられたけど、LED制御に専用のコントローラ(リモコン)やソフトウェアを使用したり、肝心の冷却性能が日本のPC自作派ユーザーにとって一定以上の評価や人気を得られていないといった問題があったため、決めきれなかった。日本設計のCPUクーラーは冷却性能重視のものが多く、通常のラインナップでヒートシンクにLEDを内蔵しているものはなかった。

幸い、ASUSのTUFゲーミングとのコラボレーションでScytheの人気空冷クーラー「無限五 Rev.B」の限定生産版としてヒートシンクにRGB LEDを追加したものがあった。LED制御は12V RGB LEDヘッダにケーブルを接続するだけのシンプルなものなので専用ソフトウェアが必要ないのもポイントが高かった。ただ、限定生産なので流通在庫がそもそも少なく、私が購入した後、日本国内では取り扱い店舗はひとつもなくなった。どうやら最後の1個だったらしい。海外に輸出したものを逆輸入するという手もなくはないけど、国内での価格を知っていると手が出せるような価格ではない。

イルミネーションを楽しみたい層には一定の需要があると思われるので、RGB LED内蔵のヒートシンクを採用した空冷CPUクーラーも通常のラインナップに加えて欲しいところだ。

結局、2019年中にはRGB LEDを内蔵した無限五は再販されることはなかったけれど、2020年1月にアドレサブルRGB LEDを搭載したモデルとして復刻した。

邪推かもしれないけど、ASUSとのRGB LED内蔵CPUクーラーの再販に関する取り決めには「アドレサブルRGB LEDを含む」とはどこにも書いてなかったということを根拠にしているのではないかと勝手に思っている。

アルミニウム色の味気ないヒートシンクの無限五ではないラインナップも改めて増えて、ライトアップにこだわりたい人にとっては朗報になったんじゃないかと思う。売り出し価格が1万円弱と通常版の無限五に比べると無視できないくらいの高めの価格設定なので、アドレサブルRGB LEDにどれだけ価値を見いだせるかどうかの商品ではあるんだけれども。

サイズの新型CPUクーラー「無限伍 ARGB PLUS」が発売、120mmファン×2基搭載

メモリ

RGB LEDをヒートスプレッダに内蔵したメモリは、Team、Corsair、Kingston、G.SKILL、GIGABYTEなど主要なメーカーに数多くラインナップがあるけど、大抵大型のヒートスプレッダが取り付けられていて、空冷のCPUクーラーとの干渉は避けられないものが多数見受けられた。特に、Corsairのメモリは高さが50mmを超えるため、空冷とは相性が悪い。Corsairはイルミネーションの見栄えを良くするにはDIMMスロットを全部埋めたほうがいいことを理解していて、RGB LEDのライトバーを内蔵しただけのためだけのダミーメモリを用意している。この発想は素晴らしいんだけど、メモリをオーバークロックするようなユーザーは水冷クーラーを利用しているという想定のようだ。ダミーメモリは意外と作っているところがなく、Corsair以外だとGIGABYTEくらいしかない。

G.SKILLのTrident Z RGBとTeamのXCALIBURが最終候補に残ったけど、XCALIBURが独特の斜めデザインで最大高48mmと高めだったため、44mmと控え目なTrident Z RGBを選択した。最初は高価だったハイクロック・メモリが最近は手頃な価格になってきたため、定格2666MHzでも2933MHz以上の選別メモリでも容量が同じなら価格に大差がなくなってきた。

IntelのCPUを採用しているシステムではハイクロック・メモリの恩恵を体感として感じにくいと言われているけど、高負荷ゲームや画像処理、暗号化/複合化処理、3DCGレンダリング、動画エンコードなどCPUとメモリ間で大量のデータをやりとりする用途では威力を発揮するようで、どの程度違いが生じるものなのか試してみたくなったので、3600MHzの製品を選んだ。CASレイテンシがCL16など短いものは万単位で価格が跳ね上がるので、バランスのいいところでCL19のものにした。JEDEC準拠のDDR4-3200メモリがCL22なので、3600MHzでCL19は十分速いと思う。

なお、Trident Z RGBの後継になるTrident Z Neoが発売されたので、ヒートスプレッダが両面黒のTrident Z RGBは入手しにくくなっていくと思う。DDR4 SDRAMは作れば作るほど赤字になっていくというほど価格の下落が続いていたため、半導体メーカー各社SDRAMチップを減産する傾向にあり、選別メモリは更に入手困難になるか、価格高騰の可能性がある。今後は付加価値が高く、利益の見込めるDDR5の開発、商品化を加速していくことになるのだろう。

PCケース

あまりにも安いPCケースを選んでしまうと、ドリルで穴をあけたり、ネジ穴を切ったりなんてのは当たり前くらいのよほどDIYに慣れている人でない限り、基本中の基本である組み立てで問題が起こる可能性が高くなる。マザーボードを設置する場所以外は特に規格がなく、各社の特徴が出やすいので、PCケースの選定が一番大変だった気がする。

要求を満たすようなPCケースはFractal DesignのDEFINE R6くらいしかない。というか、新しくPCケースを買うならFractal Designしかないと思っていた。安くはないけど、今後PCケースは買い換えないつもりで汎用性の高い製品を選んだ。USB Type Cをフロント・パネルに搭載していないものでもよかったんだけど、後からUSB-Cを搭載したオプションのフロント・パネルを購入するよりも若干安上がりだったのでDEFINE R6 USB-Cにした。こうして予算が徐々にオーバーしていくのである。

DEFINE R6は光学ドライブを搭載できる点でも貴重。オールインワン型水冷CPUクーラーの流行で、内部に場所をとり、ラジエータと干渉しやすい5.25インチ・オープン・ベイが嫌われ、最初から搭載していないPCケースが増えた。

USBで外付けするDVD/Blu-rayドライブが省電力化され、バスパワーでも駆動できるなど電源の心配がなくなったこともあり、5.25インチ・ベイを1基でも搭載しているPCケースのほうが珍しくなってしまった。実際、ほとんどのソフトウェアはダウンロード販売で、OSでさえUSBメモリからインストールするようになってしまったので、光学ドライブの出番は急激に減った。

サイドパネルが透明の、いわゆる「魅せるPC用ケース」はデザインが奇抜なものが多く、日本人の感覚や住宅事情に馴染まないために人気のケースというのは少ないんだけど、その数少ない中でFractal DesignのDEFINEシリーズは人気がある。シリーズ一貫してフロント・パネルが垂直、平面で潔く、奇抜な見た目よりも機能美を重視した主張しない設計が人気の理由のようだ。

最終構成

当初は旧PCの性能底上げのためのリフレッシュ程度の軽微な改修の予定だったけど、CPUをi7-9700Kに切り換えたために、結局ハイスペックを追求した構成になってしまった。総額13万円ほどで予算をかなりオーバーした。もっとも、これだけのスペックを持ったPCをBTOなどで購入しようとしたら13万円ではとても買えないので、相対的なコストパフォーマンスはいいほうだと思う。

BTOパソコン・ショップでどれだけパーツの選択肢を増やしていたとしても、自分で吟味して選ぶ自由度の高さには敵わない。もちろん、相性問題といったリスクもあるけれど、それをも楽しむのがPC自作の醍醐味というものだ。

新構成一覧
項目 メーカー 品名 仕様 備考
マザーボード ASRock Z390 Extreme4 Z390チップセット
Intel I219V GbE
Realtek ALC1220
NCT6791D
 
CPU Intel Core i7-9700K SRELT (P0)  
CPUクーラー Scythe Mugen 5 TUF SCMG-5100TUF 無限五 Rev.B
RGB LED仕様
 
メモリ G.SKILL Trident Z RGB
F4-3600C19Q-32GTZRB
DDR4-3600 UDIMM
19-20-20-40
SK Hynix C-die (18 nm)
 
グラフィックス Intel Intel UHD Graphics 630 DisplayPort×1
HDMI×1
VGA×1
 
SSD crucial BX200
CT240BX200SSD1
2.5″ 240GB SATA3 旧PCから移設
HDD1 Western Digital WD5000AAKS 500GB SATA2 7,200rpm 旧PCから移設
HDD2 HGST HDT725025VLA380 250GB SATA 3Gbps 7,200rpm 旧PCから移設
光学ドライブ LG HL-DT-ST GH24NS50 SATA
DVDスーパーマルチ
旧PCから移設
電源 HEC HEC-500TE-2WX 500W 80PLUS Standard
ATX Ver.2.3
EPS Ver.2.92
旧PCから移設
PCケース Fractal Design DEFINE R6 USB-C BKO TG    

性能

例によってLightWave2015でレンダリング時間を計測した。無限五の冷却性能に期待して、長期間電力制限を200Wに設定してコアクロックが4.6GHzで張り付くように設定してみたところ、サーマル・スロットリングも発生することなく、70℃台で完走した。

ハイパー・スレッディングはないものの、物理8コアの性能をいかんなく発揮していて、旧PCでは11分25秒かかっていたものが2分28秒で終わった。なんと、i9-9900Kを搭載したマウスのBTOパソコンの2分12秒にあと16秒まで迫る性能を示した。

LightWave 2015
CPU 総レンダリング時間 ラジオシティ時間 パフォーマンス 備考
Core i7-860 685.2秒(11分25秒) 91.2秒(1分31秒) 1.00倍 DDR3-1333
Core i9-9900K 132.4秒(2分12秒) 21.7秒 5.17倍 DDR4-2666
Core i7-9700K 148.9秒(2分28秒) 21.9秒 4.60倍 DDR4-3600

i9-9900Kは定格95Wで計測したもので、コアクロックは4.2GHzまでしか上がらなかった。マウスのBTOパソコンはCPUクーラーが非力で、コアクロックが4.7GHzになるように設定するとあっという間に90℃を超えてしまい、サーマル・スロットリングが働いてしまうので本来の性能を発揮できていないことが予想される。

BTOパソコンはパーツ交換を前提としていないので、CPUクーラーひとつ交換するにもマザーボードを取り外さなければならなかったり、分解するのは少々面倒だけど、CPUクーラーを風魔弐あたりに換装しようと心に誓った。

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Synology DS218jと東芝レコーダーD-M470を連携する

最終更新:2020/05/01

2013年末頃に発売された東芝製タイムシフトマシン搭載のレグザサーバー(HDDレコーダー)D-M470を約5年にわたって愛用している。今回は、Synology NASのエントリーモデル DiskStation DS218jを使って録画番組の整理をしてみた。

D-M470の概要

D-M470は、最大7チャンネルの地上波デジタル放送を同時に録画できる、いわゆる「全録レコーダー」。事前に録画予約をしていなくてもチャンネルさえ指定しておけば自動的に録画が開始され、HDDに記録されている過去番組表から選んで好きな番組の最初に遡って視聴できるという当時としては画期的な視聴スタイルを提案した製品だった。古い番組から順に削除されていくので、見終わった番組をわざわざ削除する操作をしなくてもよく、「手間なし、手放し感」を前面に打ち出していた。

同様の設計思想のレコーダーはその前にDBR-M490があったけど、Blu-rayディスク再生/録画機能を搭載していて全方位をカバーしようとした製品だったので筐体も大きく、価格も他社製品と比べても突出して高価だった。D-M470は、DBR-M490から思い切ってBlu-rayドライブを省略することでシステムを簡略化し、筐体の大幅なダウンサイジングとともに低価格化を図ったモデル。

全録レコーダーはその後2019年現在に至るまで、価格の高さからなのか、インターネットで視聴する動画サイトやコンテンツ配信サービスの隆盛からなのか、それほど一般化せず、東芝かパナソニックの一部機種に残っているに過ぎない。それらもBlu-rayドライブを搭載しているのが前提で、安いものでも7万円くらいから、高級機は16万円前後の価格帯になっている。

タイムシフトマシンの問題点

D-M470のタイムシフトマシンは便利なんだけど、7つあるチューナーのうち6つはタイムシフトマシン専用で通常録画用に転用できず、裏番組が複数重なっている時間帯を予約録画で確実に同時録画しておく方法がない。タイムシフトマシンから残しておきたい番組を「ざんまいプレイ」という番組抽出機能でリストに出させてタイムシフト領域とは別の領域に保存するという運用しかできない。それなりに画質を維持しようとするとタイムシフトマシンは長くても1週間分くらいの番組しか保持しておけないので、多忙だったり、長期の旅行・出張などで留守にしていてリストをチェックできないとシリーズ物の番組を録り逃してしまうというミスが無視できない頻度で起こる。そういった柔軟性のなさなどに不満はありつつも今まで一度も故障はしていないので買い換える動機も弱いのが現状。

なお、最近の東芝製レコーダーのタイムシフトマシンは改善されていて、同じ曜日、同じ時刻の番組を繰り返して自動的に保存しておいてくれる機能が追加されている。通常録画に使えるチューナーが1つしかなくても、すべてのチューナーを効率よく利用できるように進化している。

容量不足問題

更に深刻な問題が容量不足。保存用領域にはUSB接続の外付けHDD(3TB)を利用しているけど、5年も運用していると「一度は観たけど残しておきたい番組」や「いずれは観ようと思っている番組」といった消すに消せないデータが溜まってきてHDDの容量を圧迫してくる。

容量不足はセルフパワーUSBハブ経由で新しいUSB-HDDを追加登録するのが一番簡単な解消方法ではある。ただ、そうした場合、著作権保護の関係で録画したレコーダーでしか再生できないという問題が残るのでD-M470が故障したらすべての録画番組を視聴できなくなる。故障したD-M470を修理したとしても、登録したUSB-HDDを再認識する保証はない。それに、ただUSB-HDDを追加するだけでは、2万円くらいの出費がかさむ割にデジタル機器のスキルが何も向上しない。

2014年12月2日にD-M470のファームウェアに大型アップデートがあり、DTCP-IPに正式に対応した。それまではレグザブランドの限られた機器でしかD-M470に記録されている録画を視聴できなかったけど、iPhoneをはじめとする一般のスマートフォンやWindows PCで視聴できるようになった。その後、I-O DATAやBUFFALOからDTCP-IP対応NASが登場し、録画番組をレコーダーからLAN経由でNASにダビングできるようになった。ただ、DTCP-IPは日本語放送の著作権保護を目的とする日本独自の暗号化技術であったため、海外製NASはDLNAに対応してさえいれば十分と考えられていてDTCP-IPへの対応は遅れていた。サードパーティとして組み込みソフトウェアを開発する日本のIT企業がDTCP-IPサーバー機能をNASに追加するアドオンを海外NASメーカーにも提供したため、I-O DATAとBUFFALO以外の選択肢も増えた。

NAS選定

NASを選定するにあたっては、ハードウェア的な性能ももちろん大事だけど、DTCP-IPサーバーとして運用できる能力がなければならないので、ソフトウェア(ファームウェア)の面でも適否を検討する必要がある。

DTCP-IPサーバー候補

まず、NASをDTCP-IPサーバーとして運用するには、当然ながらDTCP-IP用アドオンが必要になる。候補は次の3つ。

DiXiM Media Server
I-O DATAやBUFFALOのNAS、東芝のREGZA、シャープのAQUOSでも採用している比較的メジャーなDTCP-IPサーバー組み込みソフトウェア。DTCP-IP対応のプレーヤー「DiXiM Play」がダウンロード販売されていて、Android版、Fireタブレット/Fire TV版、iOS版、Windows版と複数のプラットフォームに対応しているのが特徴。

sMedio DTCP Move
Synology、QNAP、ASUSTORなど海外製NASにも採用されていて対応機種は非常に多い。ただ、録画データのムーブに失敗する確率が高く、失敗した場合でもダビング10のコピー可能回数は減ってしまうという問題があるらしく、信頼性の面でやや不安がある。sMedio DTCP Moveに対応するプレーヤー「sMedio TV Suite」がスマートフォンの場合、Androidにしかアプリがなく、iOSにはない。スマートフォンはiPhoneを使っているので、iOS版がないというのは減点になる。

Twonky Server
3つの候補の中では一番歴史があり、QNAPのNASで採用されていたけど、最近事業譲渡などがあった関係で活動を縮小しているようで、Twonky Serverが使えなくなったという話が出ている。また、録画データをムーブしたはいいけれど、それを再生する「Twonky Beam」というアプリが配信停止になって使用不能になってしまっていたりなど、先行きが不透明なところがあるようだ。

東芝がまだAndroidのスマートフォンを販売していた頃は専用のプレーヤーを作って配信していたけれど、ファームウェア更新で東芝製レコーダーがDTCP-IPに対応したために専用プレーヤーが必要なくなり、「DiXiM Play」や「Media Link Player for DTV」を録画番組持ち出しや配信受信用のアプリとして公式に指定するようになった。Media Link Player for DTVは以前から使っていて、番組の持ち出しやD-M470からの配信の視聴ができることはわかっている。また、最新機種ではDiXiMの組み込みソフトウェアを使用していることが公式サイトにも書かれているので、D-M470のファームウェアにもDiXiMの技術が組み込まれている可能性が高い。

特に悪い評判もないので、東芝製レコーダーとの親和性も高そうなDiXiM Media Serverに仮決定する。

NASハードウェアの選定

DiXiM Media Serverをアドオンとして採用しているNASはI-O DATA製かSynology製しかない。I-O DATAは国内メーカーではあるんだけど、HDDはWD Redと決まっている上に、Redを単体で買った場合より価格は高めに設定されている。HDDを搭載していないNASキットもあって好みのHDDを選ぶこともできるんだけど、仮にDiXiM Media Serverでうまく録画データのムーブができなかった場合、他の手段がない。

SynologyはDiXiM Media ServerとsMedio DTCP Moveの両方に対応しているので、ひとつ試して目的が達成できなかった場合に他方のアドオンを試すことができる。ただし、DiXiM Media ServerはDS218jというエントリーモデルにしか対応していないし、今後も対応する予定がないそうなので、この記事を書いている時点ではDS218jを選ぶしかない。発売時点ではDS218j以外のSynology NASにもDiXiM Media Serverを展開する予定はあったようだけど、開発元のデジオンの方針が変わらない限り唯一の機種になりそうだ。

いずれにせよ、まずは録画番組をムーブできないことには容量不足問題を解消できないので、トランスコード機能を搭載していないなど若干スペックに不満はあるけど、NAS本体はDS218jに決定した。

内蔵するHDDについては「NAS向けHDD」と称するモデルが各社ラインナップがあるけれど、一般PC用HDDよりもひとまわり価格が高い。たまたま通販で週末特価販売があったので、WD Blue 4TB 2基とした。一般用でも省電力化や静音化は進んでいるので、Redである必要はないと判断した。

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現状の環境

NASを導入する前の環境は次の図のようになっている。D-M470には有線LANも搭載されているけど、100Mbpsまでの速度しか出ないのでWi-Fiで接続している。2013年発売なので、IEEE802.11nまでしか対応していないけど、5GHzの無線LANには対応しているので、有線LANよりはスループットが出る。ちなみに、東芝製レコーダーは最新機種でもいまだに有線LANはギガビット・イーサネットに対応していないので、Wi-Fi(IEEE802.11ac)で接続することになる。

テレビは東芝の32R9000という機種。2009年製と古いので、イーサネット端子はついているものの、主に番組表やファームウェアの受信のためのもので、DHCP等のLAN機能はない。当然、DTCP-IPにも対応していないので、サーバーから録画番組の配信を受信することもできない。

Wi-FiルーターはASUSのRT-AC68U。新しい機種ではないけれど、後発の機種よりも高性能だったりして評価が高い。ルーターそのものはDTCP-IPとは関係ないので、データの流れを説明する図では省略する。

なお、PCもルーターに接続されているけど、DTCP-IP対応のソフトウェアをインストールしていないので、この図では除外している。

使用可否試験

NASを導入する前に、D-M470と各種プレーヤーの間で致命的な相性問題がないか試験してみた。Media Link Player for DTVは以前から使っているので問題ないことはわかっている。DiXiM PlayのiOS版とWindows版をインストールしてみてお試し1分間視聴ができるので、とりあえず映像と音声が出ることを確認した。ただし、D-M470本体に内蔵されているHDDの録画番組は配信されるけど、USB-HDDに記録されている録画番組は番組リストすらブラウズできなかった。スリープ状態になっているUSB-HDDをウェークアップしている気配すらなかった。

ブラウズできない理由ははっきりしないけど、ひとつ言えることは、東芝製のレコーダーは録画番組を見た目上フォルダで管理できるけどWindowsのフォルダのようにそこに格納されているわけではなく、タグ付けのように扱われているということ。したがって、ひとつの「すべて」フォルダに録画番組が全部格納されているため、ブラウズしようとすると大量のリストをロードしなければならないため応答しないと考えられる。

後でNASを導入してからわかったことなんだけど、スマートフォンアプリでAVC 5.8相当のHD画質の録画番組を再生できていたのは、D-M470がトランスコードしているからだと判明した。旧式の機種ながら、トランスコード機能を実装しているとは意外に優秀な機器だった。

DS218j導入

NASを導入した環境を表したのが次の図。Windows PCには無線LAN機能がないのでギガビット有線LAN。DS218jにも無線LANはないので、付属のLANケーブルで接続。ギガビットに対応しているので配信には問題ないけど、SATAなどと比べると転送量は少ないので書き込みにはやや時間がかかる。

RAIDはあえて組んでいない。LAN内に4TBのHDDを2基配置したイメージで、片方を録画番組の倉庫に、他方をPCなどのデータのバックアップ領域にする。冗長性がないのでどちらかのHDDが故障したらそのHDDのデータは失われてしまうけど、テレビ番組の録画なら失ってもそれほど惜しくはないのでRAIDを組むことで有効容量が少なくなるデメリットのほうが大きい。そもそも、レコーダー内蔵のHDDも、USB-HDDも、冗長化なんてしてなくて5年も運用していたわけだし、今更故障リスクを考え始めるのも滑稽な話だ。

PCバックアップはPC内のメインストレージのRAID 1か、そのRAID 1の内容をまるごとコピーした古いHDDを転用した内蔵バックアップか、NASのHDDのいずれかに生き残っていれば救済できるので、PC外のデータ分散先までRAIDにする必要はない。

なお、DS218j本体やDiXiM Media Serverの導入方法については他にも詳しい記事がたくさんあるので、ここでは述べない。

ダビング

レコーダーからDiXiM Media Serverに録画番組をコピーする方法は、アップロード型とダウンロード型がある。アップロード型はレコーダーを操作してDiXiM Media Serverにデータを送信する方法で、ダウンロード型はNASのDiXiM Media Serverを操作してレコーダーにデータを要求して受信する方法。どちらの方法を使うかはレコーダーの設計に左右されるけど、アップロード型が多数派。ダウンロード型の機器はかなり限定される。

どちらが優れているとは言い切れないけど、アップロード型はレコーダーとNASが起動していれば操作を完結できる。ダウンロード型はPC、タブレット、スマートフォンのウェブブラウザを起動してNASを操作しなければならない。ただ、ダウンロード型はデータの転送要求に応えることさえできればいいので、SONYのnasneのように、もともとアップロード機能を持っていない機器でも対応できる可能性があるというのが利点。

D-M470はアップロード型でもあり、ダウンロード型でもある。良く言えばハイブリッド型だけど、録画番組の種類によって切り換える必要があるという意味ではレコーダーを操作したり、NASを操作したりとせわしないとも言える。

通常録画番組(HD画質)

通常録画で記録したHD画質の番組は、レコーダーを操作してNASに送信する。デフォルトではDS218jにつけたサーバー名に [DiXiM Media Server] を加えた名前で表示される。この名前を識別のためのフレンドリー名と呼ぶけど、長すぎると思う場合は変更できる。

AVC 5.8相当で記録した録画番組の場合、30分番組なら約5分で転送が完了する。レコーダーに直結されているUSB-HDD同士でダビングする場合のようにダビング10のコピー可能回数の残りごと移動させることはできないので、元の録画番組のコピー可能回数が1つ減り、NASに複製ができる。NASへコピーした録画番組は1回分のコピー回数しか残っていないので、NASから更にどこかへムーブしたりコピーしたりすることはできない。

持ち出し変換済み番組(SD画質)

持ち出し番組として変換した録画番組の場合はD-M470本体内蔵HDDの専用領域に記録されているため、レコーダーからではアップロード操作ができない(リストの確認と削除はできる)。NAS側を操作してレコーダーからリストを取得し、ムーブしたい番組を選んでダウンロードする。スマートフォンのアプリを使って番組を持ち出すのと感覚的には同じ。ファイルサイズが小さいので、30分番組なら1分半程度で転送が完了する。

DiXiM Media Serverにはタスクを設定してダウンロード可能な録画番組ができたら自動的にダウンロードする機能があるけど、D-M470はこの機能に対応していないので、自動ダウンロードはできない。

ダビングまとめ

上記のダビング方法を表すと次の図ようになる。パナソニック製のダウンロード型のレコーダーの場合、DiXiM Media Serverを操作して録画データを低解像度のデータに変換しながら優先してダウンロードすることができるんだけど、D-M470の場合は一度レコーダー側で低解像度の録画データを作成してからでないとDiXiM Media Serverに送れない。この辺は設計思想の違いで、新旧に関わらず東芝製レコーダーの共通仕様であり、仕方がないと諦めるしかなさそうだ。

DiXiM Media Serverの公開フォルダは通常の共有フォルダと同等に扱われるため、Windowsのエクスプローラーから中身を参照することもできる。また、公開フォルダを複数設定することもでき、ボリューム1が満杯になったらボリューム2を利用できる。NASから外に出すことはできないけど、NASの中で移動させる分には何度でも移動できるため、8TBの格納領域を得たことになる。注意点としては、Windowsのエクスプローラーでファイルを移動させることも一応できるんだけど、コピー可能回数の情報が欠落してしまうので、少々面倒でもDiXiM Media Serverをちゃんと操作して移動させるほうが良い。

なお、sMedio DTCP Moveは公開フォルダを別の方法で参照することができないように権限が設定されているそうだ。

再生検証

レコーダーの録画番組をNASに移せたとしても、それを再生できないのでは意味がない。上記の使用可否試験で問題なかったDiXiM PlayのWindows版とiOS版、Media Link Player for DTVの3種のプレーヤーで検証した。他にもPower DVDがDTCP-IPに対応しているようだけど、ライセンスを購入してからでないとDTCP-IP機能を試せないので今回は検証していない。

DiXiM Play (Windows)

Windows版のDiXiM Playは画面サイズ、メモリ容量、CPUパワーなど色々余裕があるのでそれほど心配はしてなかったんだけど、HD画質でもSD画質でも正常に再生できた。ビットレートの高低も関係なさそうだったけど、オリジナルの録画番組がAVC 5.8相当なのでそれより上げて録画した場合は特にチェックしていない。

DRモードで録画した番組も問題なく再生できたけど、DRモードにはこだわっていない。

DRモードはMPEG-2であるのに対し、MPEG-4 AVC/H.264による録画は機器間のデータ互換性を高める効果もあるためだ。MPEG-2はエンコードに実数演算を使っていてCPUの演算精度によってはデコード時の誤差が蓄積するため、他社製機器間でのデータの互換性はあまり考慮されていない。一方、MPEG-4 AVC/H.264は16ビット整数演算でエンコード/デコードするためCPUの性能差による誤差が生じない。つまり、NASに限らずDTCP-IPに対応してさえいれば、東芝製とパナソニック製のレコーダーをLANで接続して録画番組をダビングすることもできる。よって、AVCで圧縮したデータさえ再生可能であれば、D-M470が故障して買い換えることになっても新しいレコーダーで再生できるかどうかは必要以上に心配しなくてよい。

D-M470で再生する場合との比較を次に示す。

  • 利点(優れている点)
    • 0.8倍速再生ができる。
    • 1.0倍再生だけでなく、0.8倍、1.2倍、1.5倍、2.0倍速再生でも字幕が表示される。
    • 0.8倍、1.2倍、1.5倍、2.0倍速再生でも音声が出力される。(DTCP-IP対応プレーヤーでは出ないものもある)
    • マウス等のポインティング・デバイスで操作できるため操作が直感的。
    • NAS上の物理フォルダを指定してリストを閲覧できる。
    • ジャンルやチャンネルなど物理フォルダを横断して番組の属性でリスト表示できる。
  • 欠点(劣っている点)
    • マジックチャプター機能で自動的に切られたチャプター情報はなくなり、1チャプターに結合されるため、CMをスキップできない。
    • リモコンを使えないので、遠くからでは操作できない。
    • ショートカットキーがないので、遠隔操作のためにはBluetoothキーボードは使用できず、ワイヤレス・トラックボールやジャイロセンサーマウスなど片手操作が可能なポインティング・デバイスが必須。
    • リストでは録画画質が判別できない。複数の画質が混在する場合はフォルダ分けをするなど工夫が必要。
    • テレビやレコーダーの映像処理エンジンを利用できないため、映像に鮮やかさがない。
    • 再生していた番組が終わった時にその番組がハイライトされないため、次の番組を続けて観たい時にわかりにくい。

DiXiM Play (iOS)

iOS版のDiXiM PlayはDiXiM Media Serverと同じ企業が作った割には想定より成績が悪かった。持ち出し変換済みの録画番組を再生できるのみで、HD画質の録画番組はビットレートに関わらずまったく再生できなかった。再生可能判定を緩くするという設定があったので試してみたけど、音声だけ出て映像は出ないというケースがあり、再生できるとは言えなかった。結局、iOS版のDiXiM Playには課金しなかった。

DRモードには対応していない。

Media Link Player for DTV (iOS)

想定外に成績が良かったのがMedia Link Player for DTV。持ち出し変換済みの録画番組を再生できるのはもちろん、番組によってはHD画質の録画を再生できるものがあった。ビットレートは関係ないようだったけど、何が違うとHD画質で再生できるのかははっきりしない。

ギガビットLANとIEEE802.11acを使えるため、D-M470から直接配信を受けるよりもレスポンスが良く、スライダーで再生位置を調整したりスキップしたりする時の待ち時間がほとんどなく、まったくストレスがなかった。

DRモードには対応していない。「対応していないフォーマットです」と明確にエラーメッセージが出る。

再生検証まとめ

Windows PCで再生する分にはどんな画質や解像度でも対応できるだけど、スマートフォンで視聴したい場合は持ち出し変換して低解像度にしておくことが必須。

持ち出し変換は等速でしか実行できなくて非常に時間がかかるので、録画予約と同時に持ち出し変換も予約しておいてD-M470が比較的暇な時に実行しておいてもらうという運用をする必要が出てきた。タイムシフトマシンから保存した録画は同時変換ができないので、寝ている間や外出中に変換するようにタスクを積んでおくしかない。変換中はタイムシフト再生や通常録画の再生もできなくなり、ほとんど何もできなくなる。最新機種はこの辺も改善されていて、保存時に変換タスクを積んでおくことができる。

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参考記事

MSI Z390-S01

最終更新:2020/03/10

Micro-ATXフォームファクタのマザーボードについてはMSI Z390M-S01をご覧ください。


©Micro-Star International

注意事項

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BIOS更新は、OSやソフトウェアのアップデートとはまったく異質のもので、全員が必ず実施し、常に最新の状態を維持しなければならないという性質のものではありません。BIOSを更新したとしても、PCの性能は向上しませんし、必ずしも新型ハードウェアへの更新、換装ができるようになるわけではありません。ほとんどの場合、BIOSを更新しても何が変わったのかわからないはずです。

当記事はZ390チップセット搭載マザーボード「Z390-S01」について個人的に調査した結果を記載しているにすぎず、当該マザーボードのユーザー全員を支援することを目的としていません。質問がある場合は、まず販売店の公式サイトをご覧いただくか、販売店に直接お問い合わせください。販売店に問い合わせてもわからなかったことは当ブログ管理者にもわかりません。

最近、こういった問い合わせが増えていますが、この注意事項を読んでおられないと判断される場合でも、当ブログの関知するところではない情報についてはお応えいたしかねますので、お問い合わせに返信しないことがあります。

「ダメでももともと、この記事を書いた人なら何か知っているかもしれないから質問してみよう」といった安易な期待にもとづく問い合わせは当ブログの記事の執筆時間を削ぐ結果にしかなりません。

以上、ご理解、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

マウスのZ390チップセット搭載マザーボードに採用されている「Z390-S01」

マウスのZ390チップセット搭載ATXマザーボード「Z390-S01」の詳細について調べた。基板には「7C22 – VER:1.0」というモデル・ナンバーが振られている。

オンボード・コネクタ

基板上に配置されているコネクタやスロットは次の図のとおり。ストレージ用M.2スロットが2基、CNVi接続Wi-Fi/BluetoothのCRFモジュール用M.2スロットが1基搭載されていて、一見、豪華仕様のように見える。PCH配下のPCI Expressレーン数は最大24と拡張性は十分なように思えるけど、Z390チップセットのフレキシブルI/Oだけで制御しきれる入出力(HSIO)の数は30レーンと限度がある。そのため、M.2スロットを2つとも使ってしまうとM.2スロットが優先され、SATAポートは4ポートに制限されてしまう。Z390チップセット以外に補助コントローラ・チップを搭載していないマザーボードではミドルレンジでも大体同じような制限があるので、廉価版OEMマザーボードだからということでもないようだ。

M.2スロットとSATAポートを排他利用したくない場合は、CPU配下のPCI Expressを44レーンと豊富に持つ拡張性の高いCore XシリーズのCPUと、X299チップセット搭載マザーボードの組み合わせを選択したほうがいいんだけど、Core XシリーズのCPUがそもそも高価なのと、CPU配下のPCI Expressレーンの分割方法が複雑なのでX299マザーボードはZ390のものよりも高くつく。

ちなみに、X299のPCH配下のHSIOは30レーンでZ390と同じだけど、200シリーズ・チップセットなので基本設計が新しくなく、USB 3.1にネイティブで対応していない。対応するにはUSB 3.1用の補助コントローラ・チップを搭載しなければならないので、もともと割高なX299マザーボードの価格の高さに拍車をかけている。また、消費電力も高く、電源も大容量のものが必要なうえに電気代の維持費も考慮する必要があるので、「全部載せ」のX299が本当に必要なのかどうかは使用目的とよく相談したほうがいい。

Z390-S01のオンボード・コネクタの配置
Z390-S01のオンボード・コネクタ一覧
コネクタ名 仕様 備考
LGA1151 第8/第9世代Intel Coreプロセッサ対応  
CPU_PWR1 8ピンEPS12V電源  
ATX_PWR1 24ピンATX電源  
CPU_FAN1
PUMP_FAN1
SYS_FAN1
SYS_FAN2
SYS_FAN3
SYS_FAN4
4ピンPWM対応ファン・コネクタ  
DIMMA1/A2
DIMMB1/B2
DDR4 SDRAM DIMMスロット Non-ECC UDIMM
最大64GB(128GB)
JAUD1 10-1ピン・フロント・オーディオ・コネクタ  
JFP1 10-1ピン・フロント・パネル・コネクタ1
(電源/リセット・スイッチ、電源/HDD LED)
 
JFP2 4ピン・フロント・パネル・コネクタ2
(ブザー/スピーカー)
 
JCI1 2ピン・シャーシ侵入検出機能コネクタ  
JRGB1 4ピンRGB LEDコネクタ 12V G R B
JTPM1 14-1ピンTPMモジュール・コネクタ 無効化
JTBT1 5ピンThunderboltアドオン・カード・コネクタ  
JBAT1 クリアCMOSジャンパ  
JUSB1
JUSB2
10-1ピンUSB 2.0ピンヘッダ JUSB2はCNViの
Bluetoothと帯域を共用
JUSB3
JUSB4
20-1ピンUSB 3.0(USB 3.1 Gen1)ピンヘッダ JUSB4は常時電力供給
JSPI1 シリアル・ペリフェラル・インタフェース BIOS非常書換用
M2_1 M.2スロット Key ID.M 2242/2260/2280/22110
PCIe/SATA両用
SATA使用時、SATA2
使用不可
M2_2 M.2スロット Key ID.M 2242/2260/2280
PCIe/SATA両用
PCIe/SATA使用時、SATA5/6
使用不可
CNVI_1 M.2スロット Key ID.E
CNVi RFC用コネクタ
使用時、JUSB2
使用不可
PCI_E1
PCI_E2
PCI_E3
PCI_E4
PCI_E5
PCI Express 3.0 [x16] (CPUレーン)
PCI Express 3.0 [x1] (PCHレーン)
PCI Express 3.0 [x16] (PCHレーン [x4動作])
PCI Express 3.0 [x1] (PCHレーン)
PCI Express 3.0 [x1] (PCHレーン)
 
SATA▼1_▲2
SATA▼3_▲4
SATA▼5_▲6
SATA3 6GB/sコネクタ  

バック・パネル

バックパネルには、USB 2.0端子が1つもない。Super Speed USBのポートにUSB 2.0かUSB 1.1でも十分なUSBキーボードやUSBマウスを接続してしまうと少しもったいない気もする。DAIVのケースのフロント・パネルにもUSB 2.0端子がないので、外部接続が可能なUSB 2.0端子が1つもないことになる。

「Z390-S01」のバックパネル

USB 2.0をどうしても外部接続して使いたい場合はマザーボードのピンヘッダからPCIスロット経由でリア・パネルか、3.5インチや5.25インチ・ベイに増設するフロント・パネルなどに引っ張ってくるしかない。ただ、USB 3.0はUSB 2.0/1.1と後方互換性があるので、USB 2.0でないと困る事情も特になく、空いているUSB 2.0ピンヘッダをどう活かそうか考えている。

排他仕様について

Z390チップセットのHSIO割り当て
HSIO 用途 PCIe
1 USB 3.1 Gen1/Gen2 #1
2 USB 3.1 Gen1/Gen2 #2
3 USB 3.1 Gen1/Gen2 #3
4 USB 3.1 Gen1/Gen2 #4
5 USB 3.1 Gen1/Gen2 #5
6 USB 3.1 Gen1/Gen2 #6
7 USB 3.1 Gen1 #7 PCIe 3.0 #1 x2 x4
8 USB 3.1 Gen1 #8 PCIe 3.0 #2
9 USB 3.1 Gen1 #9 PCIe 3.0 #3 x2
10 USB 3.1 Gen1 #10 PCIe 3.0 #4
11 PCIe 3.0 #5 GbE (LAN) x2 x4
12 PCIe 3.0 #6
13 PCIe 3.0 #7 x2
14 PCIe 3.0 #8
15 PCIe 3.0 #9 GbE (LAN) x2 x4
16 PCIe 3.0 #10
17 PCIe 3.0 #11 SATA #0a x2
18 PCIe 3.0 #12 SATA #1a GbE (LAN)
19 PCIe 3.0 #13 SATA #0b GbE (LAN) x2 x4
20 PCIe 3.0 #14 SATA #1b
21 PCIe 3.0 #15 SATA #2 x2
22 PCIe 3.0 #16 SATA #3
23 PCIe 3.0 #17 SATA #4 x2 x4
24 PCIe 3.0 #18 SATA #5
25 PCIe 3.0 #19 x2
26 PCIe 3.0 #20
27 PCIe 3.0 #21 x2 x4
28 PCIe 3.0 #22
29 PCIe 3.0 #23 x2
30 PCIe 3.0 #24

Z390-S01の仕様を調べていくにつれて、M.2スロットがせっかく2つもあるのに、両方使うと6ポートでも足りないくらいのSATAが4ポートに制限されてしまうという排他仕様がどうしても気になった。最新式の高度な電子回路の仕様を理解できるとは思えなかったけど、チップセットのデータシートに基づくネットの記事からなんとか情報を拾い集めてみた。

結論から言ってしまうと、「Z390チップセットがそういう仕様だから」。どこかのIT企業の不具合の言い訳のようだけど、自分で勘定してみた結果なのだからそうとしか言いようがない。

もう少し詳しく書くと、Z390チップセットにはHSIOと呼ばれる統合I/Oレーンが30本あり、マザーボードのメーカーはその範囲内で製品に使用するI/Oを決めて設計する。

HSIO(High Speed I/O)は、PCI Express 3.0、SATA 3、USB 3.0/3.1、GbEなどの高速インタフェースの総称で、第6世代Intel Coreシリーズ用の100シリーズ・チップセット(Skylake)から導入された概念。以前はそれぞれのI/Oに対応するコントローラ・チップを配置してそれぞれのドライバを用意しなければならなかったけど、チップセットにすべてのコントローラを統合することでメーカーはマザーボードの設計を簡略化できるだけでなく、同世代の異なるチップセットのマザーボードの設計を流用できるようになった。また、「USB 3.0は少なくてもいいからPCI Express 3.0の拡張スロットをできるだけ多く」といった特定のI/Oに特化するような柔軟な設計もできるようになった。

Z390はPCI Express 3.0を最大24レーン使えるけど、Z390-S01はバックパネルにUSB 3.1 Gen2(TYPE A+C)を2ポート、USB 3.1 Gen1を4ポート、オンボードにUSB 3.1 Gen1のピンヘッダを4ポート分備えているので、HSIOを10レーン使用している。つまり、PCIe 3.0 #1~#4を使用できないので、PCIe 3.0は20レーンまでしか使用できないことになる。USB 2.0のピンヘッダも4ポート分備えているけど、USB 2.0はもはや「高速インタフェース」ではないので、フレキシブルI/Oとは別枠でチップセットが直接制御している。いずれにせよ、帯域としてはUSB 3.0の10分の1以下なのでUSB 2.0ハブ・コントローラ・チップを挟めば計算上はHSIO 1つで10ポートは賄える。

更に、SATAを最大の6ポート使いたければ、PCIe 3.0 #13~#18は使えない。この時点で残りのPCIe 3.0は14レーン。

Z390-S01の場合、デバイス・マネージャで調べると、Realtek RTL8111H PCI-E GbE LANコントローラはPCIe 3.0 #5に、M2_1スロットに実装したPCIe 3.0 x4 NVMe SSDはPCIe 3.0 #9にマップされているから、PCIe 3.0 #9~#12の4レーンを占有することになる。残りのPCIe 3.0は9レーン。

PCI_E3スロットをx4動作で使用することを想定すると、連続してPCIe 3.0を4レーン確保できるところはPCIe 3.0 #21~#24だけになる。PCI_E2、PCI_E4、PCI_E5はそれぞれPCIe 3.0 x1なので、4つの拡張スロット合計で7レーン使用するので残りのPCIe 3.0は2レーン。HSIO 1レーンあたりの帯域は8Gbpsだから、USB 3.1 Gen2を規格どおりの10Gbpsで使えるようになっているとすれば、1ポートあたりHSIOを2レーン使うことになるので、もう余裕はない。

PCIeストレージとして使用できるのはオレンジで色を着けたPCIeコントローラだけなので、M2_2スロットにもPCIe x4 NVMe SSDやSATA SSDを実装してしまうとSATA #4と#5が使えなくなってしまう。これがM.2かSATA 6Gbpsのどちらかを選ばなければならない排他仕様の理由。

電源回路

最近のマザーボードでは電源回路の質の良し悪しでグレードの差がついたり、メーカーの電源回路に対する考え方が表れるようになった。特に、オーバークロックを試したい場合は電源回路が定格以上の出力にどれだけ耐えられるかが重要とされる。

マザーボードの仕様について書かれている記事を見ると、「VRMフェーズ」という用語が頻繁に出てくる。多ければ多いほどオーバークロックに向いているということらしいけど、最初はその理由がよくわからなかった。そもそもVRMとは何かというところから調べた。

VRMとは

Z390-S01全体に使用されている日本ケミコンの導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「NPCAP-PSF(左)/PSE(右)シリーズ」。105℃で20,000時間の高耐久性能を持つ。本来はアルミ缶頭部のアルミ色の部分が水色で、黒色の部分がアルミ色。おそらく大量調達を前提にカラーリングを特注したものと思われる。黒だからと言って特別グレードが高いわけではない。

VRM(Voltage Regulator Module)は、ATX電源から供給されたCPU用電源(EPS電源)の12VをCPU定格電圧の1~1.5Vくらいまで降圧するバック・コンバータ(Buck Converter)のことで、DC/DCコンバータの一種。低電圧大電流の電源回路を目的として設計されている。CPUをはじめとする集積回路は一定の電圧で動作することを前提にしてるけど、最近のCPUは負荷に応じて消費電力が急激に変動するので、入力電圧が一定と仮定すれば、負荷が増加して消費電力が増えると電流量も増え、負荷が減少して消費電力が減ると電流量も減る。ところが実際には、消費電力が変動すると電圧も変動してしまう。負荷増に追従できないと電圧降下が起こり、負荷減の場合は電圧上昇が起こってCPUの動作に影響を及ぼす。電圧が不足するとシステムが不安定になるし、電圧が過剰になって最大電圧を超えると最悪CPUが破損する。VRMは電流量が変動しても電圧を一定にする装置。

VRMの基礎はハイサイドとローサイドで1組のパワーMOSFET(大電力を取り扱うように設計された電界効果トランジスタの一種)を使用したスイッチング・レギュレータであり、スイッチング回路をON/OFFする時間の比を変えることで電流量が変化しても安定した電圧を供給できるように調整する。ただし、ハイサイドとローサイドのスイッチが両方同時にONになってしまうと回路が短絡(ショート)してMOSFETが損傷してしまう。これを回避するためにMOSFETのゲート信号のONのタイミングが重複しないような同期回路が組み込まれたMOSFETドライバICを使用する。これにチョークコイルや電解コンデンサのようなディスクリート・パーツを組み合わせた回路を同期整流回路という。

スイッチのON/OFFのタイミングを制御しているのはPWMコントローラ。CPUクーラーやケースファンの回転数制御方式としてよく目にするPWMとは異なり、VRM専用設計のPWMコントローラが使用される。VRMの出力電圧は常にPWMコントローラにフィードバックされていて、出力電圧が下がりそうになるとスイッチONの時間を長くし、上がりそうになるとスイッチONの時間を短くすることで電圧を設定値に近づけようとする。

理論上は同期整流回路は1つでもいいんだけど、MOSFETに流せる電流量には限度がある上、MOSFETに流れる電流が集中するのでMOSFET自身の内部抵抗によって生じる発熱(損失)が大きくなる。また、出力電圧は常に一定であるのが望ましいんだけど、必ずスイッチングの際にリップルという揺らぎが生じる。そのため、同期整流回路を複数用意し、大電流を分散させ、リップルを極力減らすために少しずつタイミング信号の位相をずらしてスイッチング回路を順次開閉していくようにする。位相を英語でフェーズと言い、それが複数あるので、「マルチ・フェーズ同期整流回路」と呼ばれる。

Z390-S01のVRMフェーズ数

PWMコントローラ・チップ「uP9521P」。拡大しているので大きく見えるけど、実際は6mm四方で目視では文字が読めないほど小さい。

VRMフェーズが不明なマザーボードのフェーズ数を調べる方法も、最初はCPUソケットの周囲に並んでいるチョークコイルの数を数えればいいんだろうか、くらいにしか理解できてなかったけど、まずはPWMコントローラを探せばいいということがわかった。

マザーボード上の電源用PWMコントローラ・チップの周囲の回路には独特の特徴があることもわかったので、探して拡大写真を撮ってみた。すると、uPIセミコンダクター社のuP9521PというPWMコントローラを使用していた。

uP9521Pは、ミドルレンジのマザーボードでもよく使われている、Intel CPUのIMVP8電源仕様に対応しているPWMコントローラ。CPUコア用に4フェーズ分、CPUコア以外の内蔵GPUやメモリなどへの電源供給用に3フェーズ分の最大7フェーズのタイミング信号を生成できる。よく、「4+3フェーズ」などと表現されるのはこれに由来している。

Z390-S01の上には10個のチョークコイルが並んでいて、その周囲にハイサイドとローサイドで1組プラス1個くらいのMOSFETと固体電解コンデンサがあり、それらで合計10組のVRMフェーズを構成している。PWMコントローラのタイミング信号はMOSFETをドライブするだけの能力が不十分なことが多く、MOSFETの前にはほぼ間違いなくMOSFETドライバICがある。ただ、場所の都合で基板の裏面に配置されていることも多い。

シングル・チャネルMOSFETドライバ・チップ「uP1962P」。こちらは2mm四方と更に小さい。パッケージには「FH」としか書かれていないけど、データシートと照合するとトップ・マーキングがオーダリング・インフォメーションと一致する。

CPUクーラーのバック・プレートにアクセスするためのメンテナンス・ホールから裏面を見てみたら、uP1962Pという12Vシングル・チャネルMOSFETドライバを使っていた。4個のuP1962Pの下に2組のVRMフェーズを置くことで電流の経路を2倍にし、擬似的に8フェーズの同期整流回路としている。タイミング信号は4フェーズなのでリップルの低減にはつながらないんだけど、電流の経路を増やせばMOSFETからの発熱を分散できると思われる。残りのVRMフェーズはCPU内蔵GPU用に1フェーズ、DDR4 SDRAM用に1フェーズずつ使われている。よく自作PCパーツの新製品記事に使われている表現としては「8(4×2)+1+1フェーズ」となる。

uP1962Pとほぼ同じ目的で使われるuP1965P(8ピン)も5V用シングル・チャネルMOSFETドライバ。しばしば「フェーズ・ダブラー」と呼ばれることもあるんだけど、MOSFETをスイッチさせるゲート信号出力を増幅する回路を内蔵してはいるものの、厳密にはフェーズ・ダブラーではない。ハイエンド・クラスのマザーボードではuP1961S(16ピン)のような本格的なデュアル・チャネルMOSFETドライバを使っているんだけど、そのデータシートのブロック図を見るとその名もずばり、「フェーズ・ダブラー」という回路が入っていて1つのタイミング信号を2つのタイミング信号に分割し、位相の異なるゲート信号を生成するようになっている。uP1961Sをフェーズ・ダブラーと呼ぶならわかるんだけど、2組のVRMフェーズに対してゲート信号を出力していれば一律にフェーズ・ダブラーというのは少々過大評価ではないだろうか。

VRMフェーズは多いほど良いのか

VRMフェーズの数が多ければ高負荷時に大電流を流せる他、PWMコントローラの周波数を上げると負荷追従性が良くなったり、チョークコイルの大きさを小さくできたりなど、一見長所ばかりのように思えるけど、単純に部品点数が多くなるのでマザーボードの価格が高くなったり、故障率が上がったりといった短所ももちろんある。また、高速でスイッチを開閉するとMOSFETのスイッチング損が増えてかえって発熱量が増えたり、低負荷時の変換効率が悪くなったりもする。

VRMの性能はそれぞれの部品の品質にも大きく影響を受け、VRMフェーズ数の多寡だけで性能の良し悪しを論じることはできない。特に、部品の大きさと性能はトレードオフの関係にあり、大きければ大きいほどコイルの損失が小さかったり、コンデンサのノイズ吸収能力が高い傾向にあるんだけど、マザーボードに乗る大きさと重量でCPUクーラーなどに干渉しないような高さという制限の中で電源回路を設計しなければならないことになる。

なので、VRMを実際に設計したことのある人に言わせると、「こんなに小さいチョークコイルとコンデンサで高効率の電源なんて無理なんじゃないの?」ということになる。こういった指摘もあり、VRMフェーズ数の多さばかりを強調するマザーボードメーカーの言うことを鵜呑みにすべきではないという批判もあるんだけど、実はVRMフェーズ数を増やさざるをえなかった理由もある。

IntelがHaswell/BroadwellマイクロアーキテクチャのCPUまであったFIVR(Fully Integrated Voltage Regulator)という内蔵電源回路を廃止したために、Skylakeマイクロアーキテクチャから電源回路をすべてマザーボード上に実装しなければならなくなった。Haswell/Broadwellでは、CPUにVCCINと呼ばれる主電源と、VDDQ、VCCSTの3系統だけ入力すればよかったけど、Skylake以降ではIMVP8規格に準拠した次の6系統を入力しなければならなくなった。

  • VCC – Processor Core Power Supply
  • VCCGT – Processor Graphics Power Supply
  • VCCIO – I/O Power Supply
  • VCCSA – System Agent Power Supply
  • VCCST – VCC Sustain Power Supply
  • VDDQ – DDR Power Supply

つまり、それぞれの入力電圧に対して適切な電力を供給するには最低6フェーズのVRMが必要になったということ。そうかといって、ハイエンド・マザーボードの16フェーズVRM電源回路などというものが本当に必要なのかどうかは微妙なところだけど、Intelから電源回路の設計を丸投げされたマザーボード・メーカーにもそれなりに事情はあるということだ。

現在のところIce Lakeというコード・ネームで呼ばれている第10世代Coreシリーズ・プロセッサからFIVRを再導入することがIntelから示唆されていて、TDP 15WというSoC向けかと思うくらいの極限までの省電力化とともに電源回路を小規模化することでCPUや電源回路からの発熱を減らし、ノートブック/ラップトップPCやタブレットPCなどのモバイル端末の軽量化や薄型化を狙っていると言われている。デスクトップ向けラインナップよりもモバイル向けラインナップが先に発表され、従来とは順序が異なっていることから、Ice Lakeマイクロアーキテクチャのデスクトップ向けCPUは登場しないか、当分先のことになるかもしれないという見方もある。

MSI製ATXマザーボードとの比較

同じMSI製ATXフォーム・ファクタのマザーボードで、Z390-S01と比較的仕様が似ているMPG Z390 GAMING PLUSZ390-A PROと比較してみた。

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オンボード・コネクタの比較

基板上に配置されているコネクタ類では、システム・ファン・コネクタとPCI Expressのスロットが1つずつ少ないことにまず気が付く。

ただ、減らされているPCI Expressのスロットは、CPU配下のPCI Express x16スロットの下ひとつ空ける形で省略されている。PCIスロットを2スロット占有するような大型のグラフィックス・カードを搭載すると、その下にあるPCI Expressスロットは使えなくなるので必ずしも必要ない。また、消費電力の大きくない1スロット型のグラフィックス・カードでも、GPUクーラーのエアフローを邪魔しないように、すぐ隣りのスロットの使用は避けられる傾向にある。スロットが多ければそれだけ部品点数は多くなるので、使われる見込みの少ないスロットを思い切って削ってしまうのはコスト削減の方法としては妥当だと思う。

システム・ファン・コネクタもPCケースが密閉型で大量にファンを搭載できるような仕様でない限り吸排気で1つずつ、2つもあれば十分なので、コネクタが5つあっても全部使い切れるかどうかは微妙なところで、コスト削減も兼ねて4つでちょうどいい数なのかもしれない。

シリアル・ポート(RS-232C)やパラレル・ポート(プリンタ・ポート)がない代わりにThunderbolt用のコネクタが備えられていて、特殊な用途でもない限り使われなくなってきているレガシーポートを切り捨てる代わりに比較的新しい仕様のインタフェースを実装することで将来の拡張性を持っているという点では、安かろう悪かろうの廉価版OEMと馬鹿にできない部分もある。

オンボード・コネクタの比較
Z390-S01 MPG Z390
GAMING PLUS
Z390-A PRO 備考
LGA1151 LGA1151 LGA1151  
CPU_PWR1 CPU_PWR1 CPU_PWR1  
ATX_PWR1 ATX_PWR1 ATX_PWR1  
PCIE_PWR1  
CPU_FAN1
PUMP_FAN1
SYS_FAN1
SYS_FAN2
SYS_FAN3
SYS_FAN4
CPU_FAN1
PUMP_FAN1
SYS_FAN1
SYS_FAN2
SYS_FAN3
SYS_FAN4
CPU_FAN1
PUMP_FAN1
SYS_FAN1
SYS_FAN2
SYS_FAN3
SYS_FAN4
 
SYS_FAN5 SYS_FAN5  
DIMMA1/A2
DIMMB1/B2
DIMMA1/A2
DIMMB1/B2
DIMMA1/A2
DIMMB1/B2
 
JAUD1 JAUD1 JAUD1  
JFP1 JFP1 JFP1  
JFP2 JFP2 JFP2  
JOC1 オーバークロック・ボタン
JCI1 JCI1 JCI1  
JRGB1 JRGB1 JRGB1  
JRGB2  
JTPM1 JTPM1 JTPM1  
JTBT1 JTBT1  
JLPT1 パラレル・ポート
JCOM1 JCOM1 シリアル・ポート
JBAT1 JBAT1 JBAT1  
JUSB1
JUSB2
JUSB1
JUSB2
JUSB1
JUSB2
 
JUSB3
JUSB4
JUSB3
JUSB4
JUSB3
JUSB4
 
JSPI1 JSPI1 JSPI1  
M2_1 M2_1 M2_1  
M2_2 M2_2  
CNVI_1 CNVI_1 CNVI_1  
PCI_E1 PCI_E1 PCI_E1 PCI-E 3.0 [x16](CPU)
PCI_E2 PCI_E2 PCI-E 3.0 [x1](PCH)
PCI_E2 PCI_E3 PCI_E3 PCI-E 3.0 [x1](PCH)
PCI_E3 PCI_E4 PCI_E4 PCI-E 3.0 [x16](PCH [x4動作])
PCI_E4 PCI_E5 PCI_E5 PCI-E 3.0 [x1](PCH)
PCI_E5 PCI_E6 PCI_E6 PCI-E 3.0 [x1](PCH)
SATA▼1_▲2
SATA▼3_▲4
SATA▼5_▲6
SATA▼1_▲2
SATA▼3_▲4
SATA▼5_▲6
SATA▼1_▲2
SATA▼3_▲4
SATA▼5_▲6
 

入出力等の比較

Z390-S01のLANコントローラがRealtek製なのに対して、他の2つのマザーボードはIntel製のLANコントローラを搭載していて、この辺でもコスト削減を図っているのがわかる。一般に、LANコントローラはIntel製よりもRealtek製のほうがCPU負荷が高いと言われているけど、常時CPU負荷が高く、高速通信も継続しなければならない用途(ネットワーク対戦ゲームとか?)でもない限りそれほど気にならない。

マザーボードの異常を示す「EZ DEBUG LED」と呼ばれるLED群や、MSIが「Mystic Light」と呼んでいる単純に電飾を目的としたLEDがすべて廃されているところもコスト削減の一環なんだろう。電飾関係はケース側面が透明でない場合はまったく役に立たないので、少しでもコストが削減できるなら、真っ先に削りたい機能ではある。

その一方で、ミドルレンジ以上のマザーボードに搭載されているデジタル音声出力のS/PDIF出力が実装されていたり、MPG Z390 GAMING PLUSやZ390-A PROの中間のグレードや単純なダウングレード版とも言えないようだ。ただ、オーディオ・コントローラがALC892なので、S/PDIFで出力したとしてもどの程度の音質になるかは微妙なところだけど。

入出力等の仕様の比較
  Z390-S01 MPG Z390
GAMING PLUS
Z390-A PRO
VRMフェーズ 8+1+1 8+1+1 8+1+1
オンボード・グラフィックス DVI-I
DisplayPort
HDMI
DVI-D
VGA
DVI-D
DisplayPort
オンボードLANコントローラ Realtek RTL8111H Intel I219-V Intel I219-V
オーディオ・コントローラ Realtek ALC892 Realtek ALC892 Realtek ALC892
スーパーI/O NUVOTON NCT6797 NUVOTON NCT6797 NUVOTON NCT6797
USB 2.0 Type-A 0 2 2
USB 3.0 (3.1 Gen1) Type-A 4 2 2
USB 3.1 Gen2 Type-A 1 1 1
USB 3.1 Gen2 Type-C 1 1 1
音声入出力 3.5mmプラグ×5
S/PDIF出力
3.5mmプラグ×6 3.5mmプラグ×6
PCI-Eスチール・スロット なし あり なし
EZ DEBUG LED なし あり あり

UEFI BIOS

PCが起動した時に「Delete」キーを押しっぱなしにしているとUEFI BIOS画面が表示される。「EZ Mode」の画面は次のとおり。BIOS Ver.の項目を見ると「E7C22IM0.107」となっていて、マザーボードのモデルナンバーが「7C22」であることを裏付けている。基本的には最近のMSIマザーボードのインターフェースを踏襲したものになっている。ただ、BIOSを書き換えるためのツールである「M-FLASH」がメニューにない。本来は左下の「Hardware Monitor」のあたりにある。

同じく、「Advanced Mode」の画面。やはり、M-FLASHのメニューがない。MSI純正マザーボードではオーバークロックに関するメニューは「OC」となっているが、Z390-S01では「FEATURES」と名前が変わっている。設定項目は「OC」と大差なく、詳細設定でCPUのVCORE電圧を変更したり、クロック周波数の倍率を固定したりといった操作をすることでオーバークロックすること自体は可能。ただ、本来は右側にある「OC PROFILE」メニューがなく、自分で設定を詰めたオーバークロッキング・プロファイルを保存したり、呼び出したりすることはできない。オーバークロックをしたことでPCが故障した場合は保証の対象外とするとマウスは明言しているのでOC PROFILEメニューがないのは仕方ないとしても、M-FLASHくらいは残してほしかった。

でも、オーバークロックを禁止するくらいだったら、オーバークロック対応のZ390チップセットをなぜ選んだのか理解に苦しむところ。最初からオーバークロック非対応のQ370チップセットのほうがマウスにとっては都合が良かったんじゃないのかと思う。ただ、Q370はエンタープライズ向けなので、コンシューマー向けやゲーミングを主力に置いているMSIとしては、ほぼ仕様が同じならZ390のほうがOEMマザーボードを作りやすかったんじゃないかと思う。

BIOS更新

mouseモデルBIOS

E7C22IM0.10A

2019年2月18日付でZ390-S01用の新BIOS「E7C22IM0.10A」が配布されていて、AFUWINx64というユーティリティでWindows上からBIOSを更新することになっているんだけど、WindowsからのBIOS更新は稀に失敗することがあるので、そんな方法を使うくらいなら最初からM-FLASHで更新できるようにしておいたほうが安心だったんじゃないかと思ってしまう。基本的に、特に動作上の不都合が発生していなければ、無理に更新する必要はない。

MSIは、2019年1月4日付のニュースリリースでZ390チップセット搭載マザーボード全製品についてDIMMスロットひとつあたり32GBのJEDEC規格準拠DDR4 SDRAMモジュールに対応したとしているけど、これにZ390-S01が含まれているかどうかはこの時点では不明だった。わざわざ「JEDEC規格準拠」と書いているのは、「DC(ダブル・キャパシティ)」という商品名でJEDEC規格外の32GBメモリ・モジュールはこれまでにもあったからだ。

E7C22IM0.10C

更に、2019年4月9日付で「E7C22IM0.10C」が配布された。OEMマザーボードでは初期構成のCPUやメモリ、ストレージデバイスなどが問題なく動作してさえいれば、それ以上の機能向上を図ることは極めて稀で、BIOSを更新すること自体が珍しいと思う。

E7C22IM0.10D

前のBIOSリリースがあってまだ間もないというのに、2019年5月22日付で「E7C22IM0.10D」が配布された。これは、前の「E7C22IM0.10A」と「E7C22IM0.10C」を更新するもので、INTEL-SA-00233で報告されたIntel MEの脆弱性に対策を講じる。ハードウェア・レベルでの脆弱性のため、PCに電源が入っていてインターネットにつながっていれば攻撃を受ける可能性があり、WindowsなどのOSレベルの対策やアンチウィルス・ソフトウェアでは脆弱性を悪用したサイドチャネル攻撃を防ぐことはできない。

セキュリティに関して感度が高いのは悪いことではないけれど、こうも頻繁にBIOSを更新することになるのであれば、なんでM-FLASHを削っちゃったのかとOEM製品開発担当者を問い詰めたいくらい。WindowsからのBIOS更新は本当にリスキーで、ハードウェアの情報を書き換えようとするわけだから、アンチウィルス・ソフトウェアなどがマルウェアと判断してその実行を妨げようとしてBIOS更新に失敗してしまう可能性さえあるし、BIOS更新中に偶発的にでもブルースクリーンが発生しようものなら目も当てられない。

ちなみに、Intel ME(Management Engine)というのは、第6世代Coreシリーズ・プロセッサ以降のための比較的新しいIntel製チップセットに内蔵されている軽量マイクロカーネル・オペレーティング・システムを実行している組込みマイクロコンピュータのこと。ホストOSが動作しているCPUとは独立して動いているものなので、その気になれば普通はアクセスが禁止されているメモリの保護領域を読み取ったりすることもできる。

E7C22IM0.10E

2019年6月12日付で「E7C22IM0.10E」が配布された。これは、前の「E7C22IM0.10A」、「E7C22IM0.10C」及び「E7C22IM0.10D」を更新するもの。ひととおりBIOSイメージを調べてみたけど、マイクロコードにもMRCにも変更はなかった。

E7C22IM0.10K

2019年12月13日付で「E7C22IM0.10K」が配布された。これは、前の「E7C22IM0.10A」、「E7C22IM0.10C」、「E7C22IM0.10D」、「E7C22IM0.10E」及び「E7C22IM0.10I」を更新するもの。E7C22IM0.10Iというのは公式にはアナウンスがなかったバージョンだけど、一部の機種には使われていたものなのかもしれない。ひととおりBIOSイメージを調べてみたら、マイクロコードとMRCに変更があった。

iiyamaモデル/o’zzioモデルBIOS

上記のBIOSの他に、「E7C22IM0.1IA(リリース日不明)」と「E7C22IM0.1IC(2019-04-11)」といったバージョンがあることがわかっている。長らくどういった出自のBIOSか不明なままだったけど、最近ようやく糸口が見つかり、iiyamaモデル用のBIOSである可能性が濃厚になってきた。iiyamaモデルというのはパソコン工房で販売しているBTOパソコンのこと。

ただ、BIOSのバイナリ・ファイルの実体の入手が困難であるため、詳細は不明。上記のmouseモデルBIOSとの相違点などもわからないけど、おそらくPOST画面で表示されるフルスクリーン・ロゴの画像が差し替わっている程度の違いだと推測できる。

なんでこういった推測ができるに至ったかというと、マウスがPC DEPOTブランドの「o’zzioモデル」として出荷しているPCではMicro-ATXサイズのZ390M-S01を使っているんだけど、「mouseモデル」ではBIOSバージョンが「E7C24IM0.10J(イチ・ゼロ・ジェイ)」などとなっているのに対し、「o’zzioモデル」では「E7C24IM0.1OJ(イチ・オー・ジェイ)」となっているため。末尾3桁の中央の桁は出荷先のブランドを示していることは容易に推測できる。だから、「1IC」の中央の「I」は「iiyama」の頭文字ではないかと推定できるというわけ。

「0(ゼロ)」と「O(オー)」や「1(イチ)」と「I(アイ)」は見間違えやすく、英語圏では連番の場合ではIとOを飛ばすのが通例だけど、BIOSはそんなに頻繁に変更するものでもないので、あまり気にしていない可能性はある。

どうして持ってもいない「o’zzioモデル」のBIOSバージョンの命名規則を知ることができたかなんだけど、マウスコンピューターの正規顧客だけが知りうる情報をフル活用して調査した、とだけここでは書いておく。

MSIバージョンBIOS

Z390-S01はOEMマザーボードなので、正式にMSIから公開されている情報はないと思い込んでいたけど、偶然見つけた中国語版のWEBサイトに情報が掲載されていて、BIOSのバイナリ・ファイルも配布されていた。これは盲点だった。マウス向けに出荷しているBIOSとは別に、MSIで独自にBIOSを並行ビルドして配布しているようだ。

Z390-S01

Ultrabook, Celeron, Celeron Inside, Core Inside, Intel, Intel Logo, Intel Atom, Intel Atom Inside, Intel Core, Intel Inside, Intel Inside Logo, Intel vPro, Itanium, Itanium Inside, Pentium, Pentium Inside, vPro Inside, Xeon, Xeon Phi, and Xeon Inside are trademarks of Intel Corporation in the U.S. and/or other countries. © 2016 NVIDIA Corporation.

  • M7C22v1.1 (Z390-S01ユーザーマニュアル PDF形式)

MSIが正式に配布しているBIOSなので、Z390-S01のBIOSをこれらに書き換えても問題なく動作はするだろう。中国語版のWEBサイトで配布されているものだけど、BIOSのインタフェース言語は英語が基本なので、設定項目が読めないということもないだろう。しかしながら、MSI版への書き換えは推奨しない。販売店からリリースされたものでないBIOSへの書き換えなどはやらないほうが無難だ。

更に言えば、マウスから出荷されているPCのZ390-S01はM-FLASHが無効化されているので、どうやってMSI版のBIOSに書き換えるのかは各自で考えてもらうより他にない。マウスが配布しているBIOSはM-FLASHを使わずに書き換えるので、MSI版のBIOSに書き換える方法もあるだろうけど、他製品のBIOSを間違って書き込んでしまわないようにするための安全装置、様々なセキュリティやプロテクトを解除するなど、ハッカーのような知識が必要で、はっきり言って楽ではない。簡単に思いつく方法をひとつ試してみたけど、プロテクトに阻害されてBIOSのフラッシュROMの書き換えまで進まなかった。

また、BIOSの書き換えに伴ってOEM版のOSの起動に必要な情報も書き換えてしまい、別のマザーボードに変わってしまったと判断されてWindowsのデジタル認証が通らなくなってしまう可能性もあるので、どうしてもやりたいならば、そういったリスクがあることも承知の上で自己責任で試してほしい。

Z390-S01のMSIバージョンBIOS一覧
BIOS 更新内容 MRC CPUID Rev. 備考
E7C22IMS.100
(7C22v10)
  • New BIOS Release
0.7.1.80 906EA 9A  
906EB 9A  
906EC 9E  
E7C22IMS.140
(7C22v14)
  • Improved memory compatibility.
  • Improved the adaptive rule of Intel Thermal Velocity Boost when overclocking.
  • Optimized CPU Vcore voltage under Offset Mode for 9th CPU.
  • Improved M2 Genie function.
  • Improved S5 wake up function.
0.7.1.95 906EA AA 変更
906EB AA 変更
906EC A2 変更
E7C22IMS.150
(7C22v15)
  • Add TG setting
  • Optimize M.2 Genie.
  • Improve S4 resume issue.
  • Improve Intel 750 nvme compatibility.
0.7.1.95 906EA AA 同上
906EB AA 同上
906EC A2 同上
906ED AA 追加
E7C22IMS.160
(7C22v16)
  • Update RST driver to 17.2
  • Update Microcode to support upcoming cpu.
0.7.1.95 906EA AA 同上
906EB AA 同上
906EC A2 同上
906ED B0 変更
E7C22IMS.170
(7C22v17)
  • Update RST driver to 17.5
  • Update Microcode.
0.7.1.110 906EA B4 変更
906EB B4 変更
906EC BE 変更
906ED BE 変更
E7C22IMS.180
(7C22v18)
  • Update Microcode.
  • Improved TPM function.
0.7.1.112 906EA CA 変更
906EB CA 変更
906EC CA 変更
906ED CA 変更

マイクロコード(CPUID)の追加

新BIOSの更新内容は「動作の安定性を向上した」というもので、2019年6月現在で日本未発売の第9世代CPU新モデル用のマイクロコードや、当初の仕様を超える大容量メモリ・モジュールへの対応など、互換するハードウェアが追加されたというものではないと思っていた。しかし、ひょっとすることがあるかもしれないと思い、UEFITool NE A55を使ってBIOSイメージ・ファイルを解析してみたところ、E7C22IM0.10CからCPUID「906ED」のマイクロコードが追加されていた。各BIOSとCPUIDの対応は次の表のとおり。

BIOSの対応CPUID
BIOS CPUID Rev. Date 備考
E7C22IM0.10A 906EA AA 2018-12-12  
906EB AA 2018-12-12  
906EC A2 2018-09-29  
E7C22IM0.10C 906EA AA 2018-12-12 同上
906EB AA 2018-12-12 同上
906EC A2 2018-09-29 同上
906ED B0 2019-02-04 追加
E7C22IM0.10D 906EA B4 2019-04-01 変更
906EB B4 2019-04-01 変更
906EC AE 2019-02-14 変更
906ED B8 2019-03-17 変更
E7C22IM0.10E 906EA B4 2019-04-01 同上
906EB B4 2019-04-01 同上
906EC AE 2019-02-14 同上
906ED B8 2019-03-17 同上
E7C22IM0.10K 906EA CA 2019-10-03 変更
906EB CA 2019-10-03 変更
906EC CA 2019-10-03 変更
906ED CA 2019-10-03 変更

CPUIDはCPUのモデルを特定するものではなく、マイクロアーキテクチャを特定するものなので、ある個体のCPUがどのCPUIDに属するかはS-specを確認しないと正確なところはわからない。S-specはヒートスプレッダに刻印してあるけど、BOX版の場合はパッケージにも書いてある。

おおまかに分類すると、906EA 及び 906EB が第8世代Coreシリーズ・プロセッサで、906EC 及び 906ED が第9世代Coreシリーズ・プロセッサなんだけど、ナンバリングでは第9世代のCore i5-9400FのCPUIDが906EAだったり、Core i3-9350KのCPUIDが906EBだったりする。i5-9400FはU0ステッピング、i3-9350KはB0ステッピングといって、第8世代の技術や設計を流用しているためなんだけど、正確に識別できないので第8世代対応マザーボードのBIOS更新が必要ないというわけでもない。第9世代にも初期生産型のP0ステッピングと脆弱性などを改善したR0ステッピングの2種類があり、同じi9-9900Kやi7-9700KでもR0ステッピングで製造されているものはBIOSの更新をしないと正常に動作しない。

免責事項

念のため釘を刺しておくけど、CPU換装はマウスの保証規定に反する改造行為なので、本記事を根拠としてBIOSが対応したと判断してCPUを換装する場合は完全に自己責任となる。換装中や換装後に発生した問題についてはマウスをはじめ誰も助けてくれないし、上記の表はBIOSイメージの調査結果を書き留めているに過ぎないので換装後の動作を保証するものではない。換装後に動作しなかったり、Windowsのデジタル認証が解除されるような事態に陥ってしまったとしても問い合わせや苦情については一切受け付けないのでご承知おき願いたい。

特に、R0ステッピングのCPUを既存のシステムに導入した場合、BIOSが対応していてもWindowsカーネルが新ステッピングに対応できないために正常に動作しないことがインターネットの記事で報じられている。安定運用にはWindowsのクリーン・インストールが必須という厄介な代物になってしまった。最近のOEM版Windowsはインストール・メディアが付属しないので再インストールの方法はひとつではなく、事前準備も含めてその手順も決して簡単とは言えない。イーサネットもまともに使えない状態でドライバのインストールから始めなければならないので、インターネットに接続できる2台目のPCがないと、怖くてOEM版Windowsのクリーン・インストールなんてできない。システムをゼロから再構築する自信がない人は、悪いことは言わないので安易なCPU換装はやめておいたほうがいい。CPUを自由に換装したり、気軽にOSを再インストールしたりしたいのであれば、最初からPCを自作するべきだ。

MRCリビジョン

2019年初頭にあったZ390チップセット搭載マザーボードのトピックは、従来ひとつのDIMMスロットにつき最大16GBのメモリ・モジュールまで、4スロット合計で64GBまでしか搭載できなかったものが、1スロットあたり32GBに拡張され、システム・メモリを最大128GB搭載できるようになったことだ。ネットの記事によると、IntelがMRC(Memory Reference Code)を更新したことで実現したということだったので、Z390-S01のMRCリビジョンを調べてみた。

ノースブリッジ(MCH = Memory Controller Hub)はCPUに統合されていて独立したハードウェアとしては既に廃止されているけど、概念だけは残っているのでPCIのホスト・ブリッジのレジスタを調べることでメモリ・コントローラのステータスを知ることができる。CPU-Zを使ってリポートを出力させるとB:00h D:00h F:00hがノースブリッジではなく、ホスト・ブリッジに割り当てられていることがわかる。

PCI Devices
-------------------------------------------------------------------------

Register space PCI Express, base address = 0x0E0000000

Description Host Bridge
Location bus 0 (0x00), device 0 (0x00), function 0 (0x00)

Intel Arkにあるデータシート「8th and 9th Generation Intel Core Processor Families and Intel Xeon E Processor Family Datasheet, Volume 2 of 2」の「3. Host Bridge/DRAM Registers」を参照すると、Host Memory Mapped Register Range Base(MCHBAR)の位置がホスト・ブリッジのレジスタ・ベース・アドレスからOffset+48hに格納されていることがわかる。これを元にして、RW – Read & Write Utilityを使ってメモリにマップされているレジスタのダンプを表示させる。すると、当該アドレスはFED10000hだとわかる(末尾の1はフラグなので無視)。

次に、同データシートの「7.42. MCDECS_CR_MRC_REVISION_0_0_0_MCHBAR_MCMAIN」を参照すると、MCHBARのベース・アドレスからOffset+5034hにMRCのリビジョン情報が格納されていることがわかる。同じくRWでFED15000hからのメモリ・ダンプを調べると、「0007015F」という値が格納されている。左から8ビットずつ、「Major」、「Minor」、「Revision」、「Build #」の順に並んでいるので、MRCリビジョンは0.7.1.95だとわかる。

念のため、HWiNFO64のSMBIOS DMI情報からマザーボードに実装されているファームウェアのバージョンを調べてみると、0.7.1.95で間違いなかった。

16進数でのMRCリビジョンがわかったので、UEFITool NE A55でE7C22IM0.10Dのイメージ・ファイルを開いて「0007015F」のHex Patternで検索をかけてみると、「SiInitPreMem」というモジュールのTE Imageに該当するデータがあった。同モジュールにはPCに電源を投入した直後にメモリ・トレーニングを実施したり、メモリを初期化するコードが入っている。

ところが、手持ちのZ390-S01用BIOSイメージのMRCリビジョンは全部0.7.1.95だったので、新しいのか古いのかわからない。そこで、同じMSI製のZ390-A PROのBIOSと比較してみた。メモリ互換性向上が明記されているBIOSバージョンでは0.7.1.80から0.7.1.95にリビジョン・アップしていた。これだけ見ると、Z390-S01も32GBメモリ・モジュールに対応したかのように見えてしまうけど、HWiNFO64のSMBIOSの解析結果によると最大物理メモリ容量は64GBで変わっていなかった。

そこで更に調査範囲を広げ、ASUSやASRockのZ390マザーボード用BIOSに組み込まれているMRCのリビジョンがメモリ互換性向上の前後で変わっているかどうか同様の方法で調べてみた。MRCリビジョンが書き込まれている部分の前後のデータにはメーカーやバージョンには影響を受けない普遍的な特徴があり、それを検索することでMRCリビジョンを特定できる。調査結果は次の表のとおり。

BIOSのMRCリビジョン
BIOS MRC Rev. Date 備考
MSI Z390-S01(マウス版)
E7C22IM0.10A 0.7.1.95 2019-02-18  
E7C22IM0.10C 0.7.1.95 2019-04-09  
E7C22IM0.10D 0.7.1.95 2019-05-22  
E7C22IM0.10E 0.7.1.95 2019-06-12  
E7C22IM0.10K 0.7.1.112 2019-12-13  
MSI Z390-S01(MSI版)
E7C22IMS.100 0.7.1.80 2018-09-27  
E7C22IMS.140 0.7.1.95 2019-01-17 Improved memory compatibility.
E7C22IMS.150 0.7.1.95 2019-02-22  
E7C22IMS.160 0.7.1.95 2019-03-21  
E7C22IMS.170 0.7.1.110 2019-08-30  
E7C22IMS.180 0.7.1.112 2019-12-25  
MSI Z390-A PRO
E7B98IMS.130 0.7.1.80 2018-11-15  
E7B98IMS.140 0.7.1.95 2019-01-18 Improved memory compatibility.
ASUS ROG STRIX Z390-F GAMING
ROG-STRIX-Z390-F-GAMING-
ASUS-0702.CAP
0.7.1.66 2019-01-18  
ROG-STRIX-Z390-F-GAMING-
ASUS-0805.CAP
0.7.1.66 2019-02-01 Supported JEDEC standard DDR4 32GB memory.
ASRock Z390 Extreme4
Z39EX42.00 0.7.1.72 2018-11-21  
Z39EX42.30 0.7.1.72 2019-01-16 Improve the memory compatibility.

意外にも、ASUSやASRockのマザーボードはメモリ互換性向上を謳っているものの、MRCリビジョンが変わっていないことが判明した。特に、ASUSは明確にJEDEC規格32GBメモリ・モジュールをサポートしたと明言している。つまり、MSIのマザーボードではMRCリビジョンが上がっているからと言っても、32GBメモリ・モジュールに対応したとは断言できない。

MRCは、その名のとおり「リファレンス・コード」なので、Intelが「こんな風にすると第9世代Coreシリーズ・プロセッサは32GBメモリに対応できるよ」と示したものだ。リファレンス・コードという用語はIT用語辞典では次のように説明されている。

リファレンスコード (reference code)

ある技術や規格をソフトウェアで実装する際にお手本となる標準ソースコード。開発元などが提供する実装例で、技術の仕様書や標準規格などを忠実に実装したもの。

仕様書などでは特定の状態における細かい動作などを定義しきれないことが多いため、開発者はリファレンスコードと同じ挙動になるよう実装を行うことにより、その技術を利用する他のソフトウェアなどとの相互運用性を高めることができる。

リファレンスコードは実装の標準を示す目的で開発されるため、最適化や高速化などのチューニングは基本的には行われず、最も素直に、平易に技術を実装したものが多い。そのままのコードが実際の製品などに使われることは想定していない場合が多く、実際、そのままでは実行速度や必要なメモリ容量などで実用に耐える十分な性能が出ないことが多い。

出典:IT用語辞典 e-Words

MRCはC言語で書かれたシンプルなソースコードでマザーボード・メーカーに配布されるため、バイナリコードとして配布されるマイクロコードとは異なり、それをまったく改変せずにまるごとBIOSに組み込む必要はない。MRCを受け取ったメーカーがIntel作成のコードを調べた結果、大規模な変更が必要なく、独自にチューニングすることでJEDEC規格のDDR4 32GBメモリ・モジュールに対応できると判断したのであれば、MRCリビジョンを更新しなくてもよいことになる。要は、各メーカーの味付け次第ということだ。

少し前までの青色や灰色の背景の古典的なBIOS画面では「Main」タブにMRCリビジョンが表示されていたものだけど、GUI化されてから表示されなくなったのはMRCリビジョンが必ずしも重要ではなくなったからなのかもしれない(ただし、マザーボード・メーカーに関わらず、AMI BIOSを解析すると「Memory RC Version」という表示項目が残っているのが確認できる)。

もっとも、Z390-S01以外のZ390マザーボードの現物を持っていないので、ASUSやASRockのマザーボードをシステムに組み込んだ時に物理メモリの最大容量がどのように認識されるかは確認のしようがない。あくまでもBIOSイメージを解析しただけの理論上の推定に過ぎないことはご承知おき願いたい。

32GBメモリ・モジュールをDIMMスロットに装着してみて認識するか確認すれば一番手っ取り早いんだろうけど、2019年6月現在では、日本ではECC無しでアンバッファードDIMMのDDR4 32GBメモリ・モジュールは入手できない状態にあった。欧米では少しずつ流通していたけど、すぐお隣りの国で設計されたものなのに日本では手に入らないというのは実に皮肉なことだ。2020年に入ってからはSamsung製以外のデュアル・ランク32GB UDIMMの製品も増え、2万円前後で入手できるようになったので、128GBメモリ環境構築の敷居は低くなった。

1枚で32GBのSamsung純正DDR4メモリが店頭販売中、実売2.5万円

Samsung純正モジュールを採用した容量32GBのDDR4メモリ「M378A4G43MB1-CTD」が、パソコンショップ アークで販売中だ。

3.7万円から買えるSamsung純正のDDR4 32GBメモリー

128GB物理メモリ環境構築可能情報

MSIの公式サイトでZ390-S01のBIOSに関する正式な情報を入手できたので、MRCリビジョンが0.7.1.95になっているE7C22IM0.10A以降はJEDEC規格32GBメモリ・モジュールを認識する可能性が高くなった。

検証はしていないので、保証はできないけど、E7C22IM0.10KのBIOSを使用している場合において、Crucialの「CT32G4DFD8266(DDR4-2666 32GB 2-Rank UDIMM)」を4枚使用した時、128GBで認識し、Windows 10のシステム情報でも「実装メモリ(RAM)」に「128GB」と表示されたという有志からの情報を得ている。認識していることと、実際のメモリ空間としてすべてのメモリ・アドレスを使用できるかどうかは関係がないので、運用してみた結果の続報を待たなければならないけど、少なくとも、モジュールをまったく認識しないということはなく、メモリ・モジュールへの投資そのものは無駄にはならないことだけは間違いない。

おまけ

「Favorite」メニューからデフォルト・ホームページを「M-FLASH」に設定することで、M-FLASHのメニュー画像だけ表示させることができた。面白いスクリーン・ショットが撮れたので載せておく。くれぐれも勘違いしないで欲しいんだけど、Z390-S01のM-FLASHは無効化されている。意外と、M-FLASHを実行できないようにインタフェースが制限されているだけで、M-FLASH本体のコードは残ってたりするんじゃないかな。BIOSから機能をまるごと削除するって控え目に言っても大変そうだし。

よくある質問

Q1. 自分のPCのBIOSと、記事記載のBIOSとはバージョン番号が異なるが、どちらが新しいBIOSか?

A1. マザーボードの型番は同じでも、メーカーの判断で改良やマザーボードに採用されているハードウェアの変更等に伴ってBIOSをまったく異なるものに変更することがある。情報はナマモノであり、記事に書いたそばから陳腐化していくものなので、記事記載のBIOSバージョンが最新とは限らない。枝分かれしたBIOSについては調べようがないため、バージョン番号がまったく異なる場合、どちらが新しいかはわからない。なお、記事記載のBIOSバージョンに誤記はない。


Q2. 最新のBIOSをダウンロードできるWEBページのURLを教えてほしい。

A2. リテール版として一般に販売されているマザーボードとは異なり、Z390-S01はOEMマザーボードであり、誰でもアクセスできる場所にBIOSが公開されているわけではない。マウスコンピューターから購入したPCの場合、ダウンロードのためには「U1~」から始まるシリアルナンバー(下図参照)をサポートページで入力することが必要で、サーチエンジンによる検索ではヒットしない場所にある。パソコン工房から購入したPCの場合、シリアルナンバーが「U3~」か「U4~」で始まっていたり、採番の方法が異なるため、同ページに入力してもダウンロードページが開けるとは限らない。

©Mouse Computer Japan

 

Q3. どこを探しても最新版のBIOSが見つからない。BIOSのバイナリ・ファイルを電子メールで送ってほしい。または、代理してBIOSを公開してほしい。

A3. 購入元の販売店からBIOSの更新を指示されていない場合、BIOSは更新しなくて良いという判断だと理解するべき。無理に最新版のBIOSを探し当てる必要はない。また、マウスコンピューターから正規の手段で購入したPCかどうか当ブログでは判断できないため、BIOSのバイナリ・ファイルを個別に送ることはない。BIOSを更新したことでトラブルが発生したとしても当ブログは責任を持てない。

また、BIOSが更新されるたびにバイナリ・ファイルを希望者全員に送付しなければならなくなるため、現実的ではないし、当ブログはそういったサービスを提供しない。不特定多数がアクセス可能な場所にBIOSを公開することもない。初心者が不用意にBIOSを更新しようとしてトラブルが続発する事態のほうが問題と考えている。

関連記事

参考資料

参考記事

DAIV-DQZ530S1P-EX9の性能

最終更新:2019/10/15

DAIV-DQZ530S1P-EX9の性能について。

CPU

CPUをはじめとするコンピュータ・システムを構成するパーツの性能を計測するベンチマーク・ソフトウェアはたくさんあるけれど、ひとまず、Intelをはじめ、AMDを含むx86互換CPUの計測結果が豊富に掲載されているPassMark Softwareのスコアを参考にした。旧メインPCのi7-860に対して、i9-9900Kは4.04倍のスコアが出ている。

2019年6月9日現在のスコア。PassMark Software © 2008-2019

LightWave 2015のレンダリング時間

ベンチマークのスコアはあくまでも目安に過ぎないし、スコアを上げるためだけのPCを組んでいるわけではないので、PCとして実用した場合にどのくらいのパフォーマンスが出るのかが重要。普段使っている3DCGソフトウェアはLightWave 2015。750,530ポイント(頂点)、1,473,360ポリゴンの重めのシーンをレンダリングして比較してみた。LightWaveの標準レンダラーはGPUを一切使わず、CPUだけでレンダリングするため、CPUのパワーがレンダリング時間の長短に直結する。

まず、i7-860の結果。

i7-860でレンダリングした時の結果。685.2秒で約11分25秒。

次に、i9-9900Kの結果。

i9-9900Kでレンダリングした時の結果。132.4秒で約2分12秒。
LightWave 2015
CPU 総レンダリング時間 ラジオシティ時間 備考
Core i7-860 685.2秒(11分25秒) 91.2秒(1分31秒) DDR3-1333
Core i9-9900K 132.4秒(2分12秒) 21.7秒 DDR4-2666
パフォーマンス 5.17倍 4.20倍

ベンチマークのスコアを参考にすると、3倍以上で4倍に近い結果が出れば御の字と思ってたけど、なんと、旧マシンより5.17倍も早くレンダリングが終わった。これは純粋に嬉しい。ハイパースレッドのないi7-9700Kとi9-9900Kのどちらにすべきか最後まで悩んだけど、8コア16スレッドの威力は凄まじい。メモリが旧メインPCの倍の帯域でデータを伝送できることも影響しているだろうけど、さすがにメモリの影響までは自分の環境では要因を分離できない。

レンダリング中のコア・クロックは4.2GHzで推移していたので、全コアにターボ・ブーストがかけられる最大クロックは4.7GHzだから、オーバークロックをしてなくてもまだ余力があることになる。とは言うものの、長期間電力制限(Long Duration Power Limit = PL1)が定格の95Wの状態だとターボ・ブーストは3.6GHzから少し上がったくらいにしかならない。

データシートを見ると、短期間電力制限(Short Duration Power Limit = PL2)はPL1×1.25となっているから、そのくらいまでは耐えられると判断してPL1を95×1.25=118Wに設定して試してみた。その結果、最大クロックは4.5GHzまで上がったけどコアの温度があっけなく100℃を超えてしまい、一部の物理コアにサーマル・スロットリングがかかって全コアの協調が乱れたため、レンダリング時間はまったく短くならなかった。

最初からついてきた90mmサイドフロー空冷クーラーではまったく力不足なのは明白なんだけど、CPUだけを「空冷最強」と言われるnoctua NH-U12Aのような高級クーラーや水冷クーラーで冷やせば済む話とは思えなくて、VRMへの負荷を考えると高電力常用はCPUやマザーボードの寿命を縮めかねない。5.17倍でも満足すべき結果だ。

日本ではi7-9700Fがようやく発売されたところだけど、そのベンチマーク・スコアを見るとi7-860の3.36倍のパフォーマンスが出せるようだ。ということは、まだ日本で発売されていない、「K」も「F」もついていない無印のi7-9700も同じくらいのパフォーマンスを期待できる。旧メインPCをリフレッシュしてレンダリングの演算能力を出させるだけのためのマシンを組んでもコストに対して高いパフォーマンスのものを作れそうなので期待が膨らむ。

GPU

グラフィックス・カードはQuadro P2000。ミドルレンジのカードではあるけど、最新のTuringアーキテクチャではなく、ひとつ前のPascalアーキテクチャのGP106をベースにしているので、それほど大きな期待をしているわけではないけれど、OpenGLに最適化されているので、3DCGソフトウェアでテクスチャ・マッピングをリアルタイムで表示させたい時は役に立つ。旧メインPCはGeForce GTS 250だった。

同じくPassMark Softwareのスコアで比較してみると、Quadro P2000はGeForce GTS 250の8.31倍のパフォーマンスとなっている。第9世代Coreシリーズ・プロセッサに内蔵されているIntel UHD 630グラフィックスのほうがGTS 250よりスコアが上回っているのを見ると時代の流れを感じる。

2019年6月9日現在のスコア。PassMark Software © 2008-2019

GPUの力量を端的に測るいい方法が思いつかなかったので、とりあえずCrystalMark 2004R7でスコアを出してみた。

まず、GeForce GTS 250を搭載した旧メインPC。OpenGLスコアは22,278。6ピンの補助電源が必要で、消費電力が150Wもあることを考えると、かなりワット・パフォーマンスは悪い。Intel UHD 630に代理をさせれば電力消費はもっと改善することになる。

次に、Quadro P2000を搭載したDAIV-DQZ530S1P-EX9。OpenGLスコアは256,951。GeForce GTS 250の11.53倍のスコアが出ている。GTS 250でもLightWaveで使う分にはそれほど力不足と感じたことはないので、自分の使い方でQuadro P2000のパワーを最大限引き出すのは難しいかもしれないけど、GTS 250の消費電力の半分の75Wで10倍の余力があるのは悪くない。

ELSA NVIDIA Quadro P2000 グラフィックスボード VD6269 EQP2000-5GER
参考価格: ¥ 64,278 (2019-06-10)
エルザ (2017-03-27)

M.2 SSD

M.2 SSDはADATAのASX8200NP-480GT-C。シーケンシャル・リードは約2,900MB/s(23Gbps)出ている。SATA SSDでも十分速いと思ってたけど、10秒くらいでWindowsが起動するのはさすがに驚異的。もっと高級なM.2 SSDなら3,400MB/sとか出るそうだけど、自分にはこれで十分だ。

ADATA Technology XPG SX8200 PCIe Gen3x4 M.2 2280 SSD 480GB ASX8200NP-480GT-C
posted with amazlet at 19.06.10
参考価格: ¥ 16,475 (2019-06-10)
ADATA Technology (2018-06-05)

HDD

HDDはSeagateのST4000DM004(4TB SATA600 5,400rpm)だけど、同容量のWDのWD40EZRZ-RT2(4TB SATA600 5,400rpm)とRAID 1を組んでしまっているので、シーケンシャル・リードは165MB/sと平凡な結果。HDDに速度を求める時代ではないので、故障せずにデータの保管庫としての役割を果たしてくれればそれで十分。

【国内代理店品】WD 内蔵HDD Blue 3.5
posted with amazlet at 19.06.10
参考価格: ¥ 8,750 (2019-06-10)
Western Digital (2018-01-01)

関連記事

DAIV-DQZ530S1P-EX9

最終更新:2019/10/15

今使っているパソコンがそろそろ10年選手になる。第1世代Intel Core i7シリーズのCore i7-860プロセッサ(Lynnfield)搭載で、プロセッサ・ナンバーが3桁という段階でかなり古いパソコンだとわかる。一応4コア/8スレッドの当時のハイエンド・プロセッサと、DDR3-1333メモリを12GB搭載していて、システム・ドライブをSATA SSDに換装していたので、通常の用途では不自由を感じることはなかった。でも、第9世代Intel Coreシリーズが実にCore i7-860の約4倍のパフォーマンスを持っていることに興味を持った。2018年後半の発売直後から続いた品薄状態が解消されて入手しやすくなったこともあり、ついに新しいパソコンを買ってしまった。

今のパソコンがマウスコンピュータ(現・マウス)だったので、MCJ系列で探していたんだけど、メンテナンス性や操作性で評判のいいケースを採用している、マウスのクリエイター向けブランドDAIVシリーズから選んだ。同じMCJ系列のパソコン工房でも似たような部材でマウスよりも安く買うことはできたんだけど、安い代わりにケースも安普請で、ケースのデザインと仕様がどうも気に入らなかった。

BTOパソコンを選択する理由は自分の要求に必要十分な性能と購入後の拡張性を重視するものだと思っているので、デザインを要求するのは本末転倒かもしれないけど、ケースが扱いづらいと後々面倒な思いをすることになる。かと言って、ケースを好きなものに買い換えてパーツを全部移植するというのも時間がもったいないし、要らなくなったミドルタワーサイズのケースは粗大ゴミになるので処分するのにも手間もお金もかかる。

マウスのウェブサイトのBTOメニューで色々組み換えて見積もりを出してみたんだけど、同じスペックならどうやってもパソコン工房よりもコストパフォーマンスが悪くなる。そこで、秋葉原にあるマウスのダイレクト・ショップに直接行って、「とにかくDAIVのケースにCore i9-9900KとQuadro P2000さえ搭載されていてWindows 10 Proがインストールされていればあとは妥協する」ということで交渉してみたら、DAIV-DQZ530S1P-EX9というモデルを提案された。これは、いわゆる「即納モデル」というやつで、パーツ選択にほとんど注文がきかなくなって価格交渉ができなくなる代わりにBTO通販よりも割安に導入できるというものだ。

仕様

マウスがBTOの選択肢として採用しているパーツはブランドを指定していないものが多いけど、ケースを開けたり、HWiNFO64を使って調べたパーツ構成を次に示す。CPUやグラフィックス・カードのような廉価版を用意できないものを除くと、コストパフォーマンス重視のパーツ選択をしているようだ。

DAIV-DQZ530S1P-EX9
項目 メーカー 型番 仕様
CPU Intel Core i9-9900K 8C/16T 3.6GHz/TB 5.0GHz
CPUクーラー 不明 8M Series CPUFAN 90mmファン付サイドフロークーラー
1,300~3,200rpm/PWM
CPUグリス 親和産業 ダイヤモンドグリス OC7 12.56W/m・k
OS Microsoft Windows 10 Pro OEM版
メモリ Kingston KVR26N19D8/16 16GB 2666MHz DDR4 Non-ECC CL19 DIMM 2Rx8
マザーボード MSI Z390-S01(詳細記事 Z390チップセット
LAN RealTek  RTL8111H PCI-E GbE 1000BASE-T/100BASE-TX/10BASE-T
グラフィックス ELSA Quadro P2000 CUDA1024 5GB GDDR5
DisplayPort×4
M.2 SSD ADATA ASX8200NP-480GT-C M.2 2280 PCIe Gen3x4  NVMe 1.3 480GB
HDD Seagate ST4000DM004 SATA 6GB/s 5,400rpm 256MB Cache 4TB
光学ドライブ 日立LG GH24NSD5 DVD-R/RW/ROM (SL/DL)
DVD-R DL
DVD-RAM (Ver.1.0/2.x)
DVD+R/+RW
DVD+R DL
CD-R/RW/ROM
CD-DA (DAE)
M-DISC
カードリーダー RealTek USB 3.0接続カードリーダー 17 in 1
SD/SDHC/SDXC
microSD/microSDHC/microSDXC
MS/MS Pro/MS Duo/MS Pro Duo
MS Micro (M2)
MMC/RS-MMC
MMC Plus/HS-MMC
MMC mobile
CF Type I/CF Type II
MD
リムーバブルケース 不明 3.5インチHDD用搭載 SATA接続 1.5GB/s
電源 不明 700W 【80PLUS BRONZE】  
ケースファン BeCool 120mm ケースファン 12V 700~1,800rpm / PWM

内部

仕様書ではわかりにくいパーツの外観などを紹介していく。外観はプロのカメラマンが照明などにも気を遣って撮影した綺麗な写真がネットにいくらでもあるので、あえて外観写真は掲載しないことにする。

まず、左側面のパネルを外した状態。マザーボードはMSI製で、Z390-S01という型式番号のシールがCPUとメモリ・スロットの間に貼られている。マザーボードの仕様は後日調査して記事にしたいと思う。市販のマザーボードではないだけに、その仕様というのは結構気になるものだ。

最近のDAIVシリーズは、ケース内部のシャドウ・ベイのケージや配線類がすべて黒で統一されていて、ほぼ真っ黒。見た目はスタイリッシュでいいけど、結束されている電源ケーブルの束の中から内蔵機器電源用のペリフェラル4ピン等のケーブルを引き出したい時は色で区別ができないので、どこの結束を解けばいいのか判りにくいのが欠点と言えば欠点。

CPUクーラー

納品書には「8M Series CPUFAN」としか書かれていなかったCPUクーラーの外観。ダイレクト・ショップの営業担当者の話ではリテールよりはマシなくらいのトップフロークーラーだという説明だったけど、大型のヒートシンクと90mmサイズのファンが取り付けられたサイドフロークーラーだった。ネットで調べた限りではメーカーなどは特定できなかったけど、G-TuneなんかのマウスのBTOパソコンには第6世代Intel Coreシリーズくらいの頃には既に搭載されていたもので、息の長い製品のようだ。

HWiNFO64で計測した限りでは1,300~3,200rpmの範囲で回る。CPUの負荷を100%にして3,000rpm以上で回り出すと低音の音がし始めてファンノイズがかなり大きくなるけど、甲高い音が周期的にうなるように鳴るファンに比べればマシなほう。CPUパッケージ温度は70℃くらいまでで抑えられていたので、さしあたって冷却性能には問題なさそう。夏場になってサーマル・スロットリングが働いてしまうほど余力がなくなってきたら120mmサイドフロークーラーに置き換えてもいいかもしれない。

ATX電源

納品書では700W 80PLUS BRONZE電源ということになっているけど、電源ユニットには出力等の仕様を示すシールなどが貼られていないので、本当に700W電源なのか、80PLUS BRONZE認証なのかはわからない。プラグイン方式の電源ではないので、やはりコストパフォーマンス重視と言えるだろう。配置は最近のPCケースで流行りの底部設置になっている。重心が低くなって転倒の危険が減るのがメリットだけど、CPUが遠くなるので電源ケーブルの引き回しが若干難しくなるという欠点もある。

M.2シールド

納品書やBTOメニューには具体的な仕様が明言されていないパーツ。写真のように、M.2 SSDをすっぽり覆う形の金属の板で、M.2 SSDのヒートシンクとしてはもっとも単純な仕組みのもの。外観としてはMSIが同名の製品でマザーボードの付属品などとして販売しているものとよく似ている、というか、ほぼ同じ。写真のものは2280サイズのものだけど、22110サイズのものもあるようだ。

ヒートシンクというよりは、その名のとおりM.2 SSDをシールドして保護する目的か、最近のゲーミングPC用のケースは側面パネルが透明のものも多数あるので、むき出しのSSDを目隠しする目的のものなのかもしれない。SSDとM.2シールドの間に空気が少しでも入っていれば熱伝導率は大幅に落ちるので、冷却性能としては気休め程度のものだと思うけど、HDDが30~33℃の状態で、M.2 SSDは23℃前後だったので、それほど神経質にならなくてもいいのかもしれない。

ケースファン

ケースファンは、BeCoolというブランドの120mmファン。ネット通販も含めて一般販売店で見かけることはあまりない。ファンブレードの形状から見て、12025-2 Axial SeriesのAD1225S(R/B)12M-N(P/M)と思われる。仕様書上では風量は2,000rpmで73.52CFMとまずまず。

グラフィックス・カード

グラフィックス・カードはQuadro P2000なのは仕様書どおりだけど、営業担当者の話では、エルザ製ということだった。

GeForceのように、オーバークロックに対応するためにベンダーによってヒートシンクの構造・形状やファンの大きさ・数が異なっていたりするのと違い、Quadroの場合はベンダーによる仕様の差はほとんどないんだけど、問題は、CPUのEPS12V電源ケーブルがグラフィックス・カードの下を通っているということ。ATX電源を底部配置にしているので、延長ケーブルなしではマザーボードの上端にあるCPU電源ソケットにEPS12V電源プラグが届かないためなんだけど、空きのPCI Expressスロットに何か拡張カードを追加しようとする時に電源ケーブルが邪魔になる。

アイネックスの延長ケーブルを使えば、右回りでも余裕でCPU電源ソケットにEPS12V電源ケーブルを配線できるのでお勧め。Amazonでは1,200円くらいだったけど、秋葉原のパーツ・ショップやヨドバシカメラでは1,000円くらいで買える(同じ家電量販店でもビックカメラは自作用PCパーツの取り扱いが少ないので店頭での入手はあまり期待できない)。他のパーツはともかく、電源ケーブルは発熱・発火などの安全面にも影響するものなので、信頼できる品質のメーカーのものを選びたい。

AINEX EPS12V用電源延長ケーブル [ 45cm ] PX-011A
参考価格: ¥ 1,210 (2019-02-23)
AINEX (2015-05-29)

BTO構成との比較

構成が比較的似ているDAIV-DQZ530S2-M2をBTOで同様の構成に変更した場合と、パーツを全部自分で揃えて自作した場合の価格の比較をしてみた。

DAIV-DQZ530S2-M2との比較
項目 DAIV-DQZ530S2-M2 DAIV-DQZ530S1P-EX9 BTO価格 単体価格
CPU Intel Core i7-9700K Intel Core i9-9900K +¥ 22,800 ¥ 65,000
CPUクーラー CoolerMaster Hyper 212 EVO 8M Series CPUFAN 0 ¥ 3,000
CPUグリス 標準CPUグリス ダイヤモンドグリス 親和産業 OC7 +¥ 1,900 ¥ 1,000
OS Windows 10 Home Windows 10 Pro +¥ 5,800 ¥ 20,000
メモリ 16GB PC4-19200/DDR4-2400 32GB PC4-21300/DDR4-2666 +¥ 25,800 ¥ 31,000
マザーボード Z390-S01 Z390-S01 0 ¥ 14,000
グラフィックス Quadro P2000 Quadro P2000 0 ¥ 59,000
M.2 SSD 512GB NVMe対応 480GB NVMe対応 0 ¥ 17,000
M.2部材 なし M.2 シールド +¥ 500 ¥ 500
HDD なし 4TB 3.5インチ SATA 6GB/s 5,400rpm +¥ 19,800 ¥ 8,000
光学ドライブ なし DVDスーパーマルチ +¥ 3,800 ¥ 3,000
カードリーダー なし USB 3.0接続カードリーダー +¥ 3,800 ¥ 2,000
リムーバブルケース なし 3.5インチHDD用搭載 +¥ 3,400 ¥ 3,000
電源 500W 【80PLUS BRONZE】 700W 【80PLUS BRONZE】 +¥ 6,800 ¥ 9,000
ケースファン 120mm ケースファン 700~1800rpm / PWM 120mm ケースファン 700~1800rpm / PWM 0 ¥ 1,000
価格 ¥ 199,800 ¥ 239,900 ¥ 294,200 ¥ 236,500
差額 +¥ 0 +¥ 40,200 +¥ 94,400 +¥ 36,700

パーツをバラバラに揃えた場合の単体価格は、ネットで調べられる範囲での価格を1,000円単位で丸めて概算した。あくまでも安めに購入できた場合を想定した価格なので、このとおりの価格で購入できるとは限らないし、需給バランスで相場は常に変動するものなので、参考程度にとどめておいてほしい。参考価格には、SATAケーブルやケース本体の価格は含まれていない。なお、マザーボードは似たような仕様のMSIのMPG Z390 GAMING PLUSの価格を準用した。

OSについては、何らかのハードウェアのバンドル品としてついてくるDSP版メディアを買うとか、安く入手する方法は色々あるかもしれないけど、そういう裏技的なものは考えないものとした。

では、BTOでのアップグレード価格は妥当なのか見ていこう。

CPU

Core i7-9700KをCore i9-9900Kにアップグレードするのが+22,800円なのは概ね妥当。

メモリ

メモリのクロックが2,400MHzから2,666MHzに少し速くなって、容量が倍になってもNon-ECCなら価格は倍にまではならないので、DDR4-2400 16GBからDDR4-2666 32GBにアップグレードするのが+25,800円は10,000円くらい割高。Intel XMPにも対応していないお徳用メモリなので、オーバークロック耐性もない。

キングストン デスクトップPC用 メモリ DDR4 2666 16GB CL19 1.2V Non-ECC DIMM 288pin KVR26N19D8/16 永久保証
参考価格: ¥ 15,499 (2019-02-23)
キングストンテクノロジー (2019-01-23)
キングストン デスクトップPC用メモリ DDR4 2400 (PC4-19200) 8GB CL17 1.2V Non-ECC DIMM 288pin KVR24N17S8/8 永久保証
参考価格: ¥ 9,250 (2019-02-23)
キングストンテクノロジー (2016-08-15)

HDD

Seagate BarraCuda 4TBなら8,000円台で買えるので、HDD 4TB追加の+19,800円は10,000円くらい割高。Western Digital Blue 4TBでもそこまで高くはない。SeagateならIronWolf、Western DigitalならRedくらいのグレードじゃないとちょっと割に合わない。そもそもIronWolfやRedは24時間365日稼働前提のNAS向けHDDなので、デスクトップPCの内蔵HDDとして必要なのかどうかは別問題なんだけど。

【国内代理店品】WD 内蔵HDD Blue 3.5
参考価格: ¥ 8,822 (2019-02-23)
Western Digital (2018-01-01)

総合的に考えると、即納モデルの+40,200円くらいが妥当な価格と言えると思う。もちろん、価格面だけ見た場合に損はしていないというだけの話で、本当はメモリはDDR4-2400の16GB、M.2 SSDは256GBで十分だったし、メモリーカードリーダーのように使用頻度の低いパーツもついてきてしまっているので、「性能そのものは大は小を兼ねるし、オマケをつけてもらった」と思って納得するより他にない。ただ、秋葉原に在来線で行けるなど、それほど遠くない距離に住んでいる人は、直接ダイレクト・ショップに行って掘り出し物がないか相談してみる価値はあるので、安易に通販を選ぶ前に脚を伸ばしてみるのをお勧めする。

逆に、BTO通販で好きなようにスペックを盛ってしまうとかなり割高のように見える。もちろん、価格には工場で注文どおりに間違いなく組み立てる工賃や工場の維持費も含まれているし、ダイレクト・ショップなどに常駐している営業担当やその他パソコンの組み立てとは関係ない仕事をしている従業員の報酬、乃木坂46を採用しているテレビCMのような広告宣伝費、及びマウスの企業としての利益も含まれているので、価格だけを見て一概に高いとは言えない。

ネット通販で日本全国から好みのパーツを入手できるようになったとはいえ、パソコンのパーツを手に入れにくい地方に住んでいる人にとっては交通費や送料などを考慮するとやむを得ない価格とも言える。マウスで十分検証していて、初期不良を除けばパーツ間の相性問題はないと言って良いので、そういった安心感の部分が価格に転嫁されているとも言える。

自作PCを組み立てた経験がある人や、HDDやメモリの増設くらいなら自分でできる自信がある人は、CPUの装着など慎重な作業を必要とし、素人には手の出しにくい部分などのアップグレードに留めて可能な限り必要最小限の規模で組んでとりあえず動くようにしてもらって、後で不満があるならばAmazonやパーツ・ショップをうまく利用して部品を買い揃えていくのがオススメ。

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