DS218jをWD Elementsの内蔵HDDでRAID1化

最終更新:2021/03/25

Synology DiskStation DS218jにWD Blue 4TBを2基搭載して主にDiXiM Media Serverの母機として運用していた。容量をすべて活かすためにRAIDはあえて組まず、冗長性がないことは承知のうえでBasicモードで2基のHDDを独立させていた。

ところが、この運用方法にはひとつ問題があることに最近気付いた。この運用方法の場合、どちらかのHDDにDiskStationのOSであるDSM(DiskStation Manager)とDiXiM Media Serverのパッケージをインストールして使うことになる。もし、DSMが入っているほうのHDDが故障した場合、HDDを交換してDSMとDiXiM Media Serverを再インストールすると、DiXiM Media Serverの暗号化情報が書き換わってしまい、それまでNASにムーブさせてきた録画番組を再生できなくなる可能性が高い。もしかしたら、DS218j本体のシリアル番号等の情報が同じであればHDDを交換したとしても問題なく動作するのかもしれないけど、故障してから録画番組のデータがすべてまったく役に立たないものになってしまって復旧不能に陥った時の損害を考えるとあまりにリスクが高すぎる。

そこで、どちらのHDDが故障したとしてもDSMとDiXiM Media Serverの情報を維持するためにRAID1化することを計画した。

RAID1化は必須ではない

後で判ったことだけど、上記の認識には誤りがあって、2基のHDDを独立して運用していてもDSMは両方のHDDにミラー化されていて、データ領域のRAID1化は必須ではなかった。ユーザーが気が付くような初歩的な問題はメーカーはあらかじめよく承知していて、どちらのHDDが故障したとしても運用が止まらないように工夫されている。

DiXiM Media Serverはシステム・ボリュームではなく、データ領域のボリュームに格納されるけど、DSMさえ生き残っていれば、DiXiM Media Serverを再インストールしてもデータ領域のボリュームに残っている録画番組を再生できる。

ただし、すべてのHDDを交換してDSMを新たにインストールしてしまうとHyper BackupなどでUSB HDDに待避しておいた録画番組のデータを復元しても再生できないことが判明している。HDDを交換するにしても、それまで使っていたDSMが初期化されないように注意を払いながら1基ずつ順次交換していくようにしなければならない。

HDDの選定

RAID1化するにあたって、保存できる容量が減ってしまうのは避けたかったため、8TBのHDDの中から選定することにした。コンシューマ向け普及機であるWD Blueは6TBまでしかラインナップがなく、8TBのモデルがないためNAS用HDDであるWD Redが有力な候補となる。

ところが、WD Blueの4TBが8千円前後で買えるのに対し、WD Redの8TBは2.5万円前後で1TBあたりの単価が5~6割増しになってしまう。SeagateのBarracuda 8TBが1.5万円前後で買えることを考えると割高感が強い。そうかと言って、やむを得ない事情がない限り、安易にはSeagateは選びたくない。記録方式がSMR(瓦磁気記録方式)であることは技術の進歩であまり問題にはならないようだけど、ワークロードは55TB/年と一般的なデスクトップ用HDDのレベルに留まることと、メーカーの信頼性の問題だ。WD Blueの「WDxxEZAZ」シリーズもSMRだけど、信頼感という心理的な差は大きい。なお、同じWD Blueでも「WDxxEZRZ」シリーズはCMR。

WD HDD 内蔵ハードディスク 3.5インチ 8TB WD Red NAS用 WD80EFAX 5400rpm 3年保証
参考価格: ¥ 25,555 (2019-09-28)
Western Digital (2018-06-01)
Seagate BarraCuda 3.5
参考価格: ¥ 15,352 (2019-09-28)
SEAGATE (2018-01-13)

WD Elementsの内蔵HDDはUltrastar?

WDの8TB HDDをなんとかより安価に入手する方法はないかとあちこち調べた。すると、昨年2018年から話題になっているかなり有名な話として、WDの外付けHDD(USB 3.0接続)の「WD Elements」や「WD MyBook」の8TBモデルの中身が、WDに買収された日立のHDD部門「HGST(Hitachi Global Storage Technology)」のエンタープライズ・グレードHDD「Ultrastar」だとする噂があった。

WDではBlue、Red、Purple、Black、Goldなど色でグレード分けされたモデルの他に、データセンター向けのHDDとしてUltrastarシリーズを今でも製造・販売している。WD Elements 8TBはAmazonで2万円前後で販売されているけど、WD製のエンタープライズ・グレードのHDDをまともに買ったら、1世代前のUltrastar DC HC320の8TBモデルでも4万円くらいはする。この噂が本当ならば、ほぼ半額なうえ、WD Redよりも安価に8TB HDDを入手できることになる。

Amazonのユーザーレビューなどを調べると、内蔵されているHDDにはWD80EMAZという型番が与えられており、製造時期によって「WD80EMAZ-00M9AA0」と「WD80EMAZ-00WJTA0」の2種類あることが判明している。概ね、2018年第4四半期以降に製造されたものはWD80EMAZ-00WJTA0になっているようだ。

2020年7月現在、「WD80EZAZ-11TDBA0」という型番のHDDが追加されているようだ。ただ、R/NはUS7SAL080で変わっていないので、設計や仕様はほぼ同じと推測できる。ネットにアップロードされている筐体の写真を見る限り、ヘリウム充填型と見て間違いないようだ。

WD Elements(8TB)内蔵HDDの種類
型式番号 近似製品 R/N 回転速度 封入ガス
WD80EMAZ-00M9AA0 Ultrastar DC HC320 8TB US7SAN8T0 5,400rpm なし(空気)
WD80EDAZ-11TA3A0
WD80EMAZ-00WJTA0 Ultrastar DC HC510 8TB US7SAL080 5,400rpm ヘリウム
WD80EZAZ-11TDBA0

ただ、この情報は一部のマニアによってまことしやかに囁かれている噂レベルのものでしかなく、当然ながらWDは公式に肯定も否定もしていない。本来のUltrastarは7,200rpm仕様であるのに対して、噂のHDDは5,400rpm仕様になっており、まったく同じ物とは言えず、日本語の電子掲示板で交わされている断片的な情報だけでは根拠に乏しい。

そこで、画像検索を頼りに海外のサイトなども調べてみると詳細な検証がなされている記事があり、これらのHDDのR/NはUltrastarのものと一致しているという有力な情報が見つかった。「R/N」が何の略称なのかは調べがつかなかったけど、WDが製造しているHDDの設計番号のようなもので、これが一致しているHDDは、型式番号が異なっていたとしても、仕様が非常に似通っていることがよく知られている。

例えば、コンシューマ向けの現行WD BlueやWD Redの小容量モデル(WDxxEFRX)のR/Nは「800055」になっており、ファームウェアなどを除く機械的な設計はほぼ同じということになる。ちなみに、WD Elementsの4TBモデルに内蔵されているHDDにはWD40EMRX-82UZ0N0という型番のものが採用されているけど、これのR/Nも800055なので、機械設計としてはWD BlueかWD Redに近いものと考えられる。

DS218jとの互換性

Synologyの公式サイトの互換性情報を調べてみると、DS218jはエントリーモデルでありながら、エンタープライズ・グレードのUltrastarにも正式に対応しており、互換性には問題ない。たまたまAmazonで2019年9月20日頃にタイムセールがあり、WD Elementsの8TBモデル(WDBBKG0080HBK-JESN)が1.8万円弱で売られていた。6TBモデルとほぼ同価格だったので、これは買わない手はないと判断して3基購入した。

WD HDD 外付けハードディスク 8TB Elements Desktop USB3.0 WDBBKG0080HBK-JESN/2年保証
参考価格: ¥ 21,010 (2019-09-28)
購入価格: ¥ 17,680 (2019-09-22)
Western Digital (2018-07-09)

HDDの調査

型式番号(電子的調査)

届いたHDDを開梱し、Windows PCに接続してCrystalDiskInfoで調べてみると、3基すべてがWD80EMAZ-00WJTA0であることが判明した。ひとまず第一段階のハードルを越えるのは成功できたようだ。仮にWD80EMAZ-00M9AA0であったとしてもUltrastar DC HC320の近似品であることには変わらないため、それほど大きな問題にはならない。上でも書いたように、HC320は本来は4万円クラスの製品であるため、1.8万円で買えるのならそれでもかなりお得だということだ。

ただし、米AmazonではHC320の8TBは200ドル前後で販売されている。日本ではエンタープライズ・グレードのものを買い求めてまでHDDに信頼性を要求するという消費者心理がないため、HC320は単純に在庫が希少であるために流通価格が上がっているという側面があるのは否めない。

失敗があるとすれば、内蔵HDDのロットがいつの間にか切り替わってしまい、判明している2種類のどちらでもない仕様不明のHDDが入っていた時だ。もっとも、WD Blueに8TB以上のラインナップがないことを考えると、8TB HDDを2万円前後で入手できる手段があるというだけでも意義があるだろう。2021年1月現在のところ、WD Elementsの8TBモデルにはHC320又はHC510の近似品が内蔵されている。

一応、CrystalDiskMarkで転送速度の計測もしてみた。ReadよりもWriteのほうが速いというのはやや不可解だけど、SATAをUSB 3.0に変換していながら184~186MB/sという転送速度は5,400rpmであることを考えに入れてもなかなかの速度ではないかと思う。これだけではSMRなのかPMR(CMR)なのかは判断がつかないので、本来ならば様々な大きさのファイルを読み書きして計測する専用のソフトを使うべきなんだろうけど、さすがにそこまで気が回らなかった。

R/N、P/N(筐体ラベル)

WD80EMAZ-00WJTA0
WD80EMAZのラベル面。筐体の形状から言ってもヘリウム充填HDDだと判る。ただ、筐体の上端に擦ったような傷があり、HDD単体で出荷するための部品としての検品では不良品として弾かれたものの、使用には問題ないとされて内蔵HDDに転用されている可能性がある。初期不良などで返品されたHDDを整備して安く卸している再調整品(リファービッシュ品)の可能性もある。安いのには安いなりの理由があるということだろう。

1基はDS218jのバックアップに回すため、そのままUSB HDDとして使用するけど、残りの2基は外装を分解して内蔵されているHDDを取り出す。

外装は非常に簡素に作られていて、簡単に分解できる。ただし、外装の中にはむき出しのHDDがそのまま収納されているため、金属の工具を差し入れて分解しようとすると中のHDDを破損させかねない。要らなくなったプラスチック製のクレジットカードやポイントカードなどを使うとHDDを傷つけることなく分解できる。YouTubeにも分解動画がアップロードされているので、それを参考にするとよい。

ただし、分解してHDDを取り出してしまうと再度同じように組み立てるのは困難なため、USB HDDとしては二度と利用できなくなる可能性が高いことには留意しなければならない。また、2年間とされている保証も受けられなくなるので、分解した時点で自己責任になる。

取り出したHDDのラベルを調べてみると、CrystalDiskInfoで電子データとして調査するだけでは判らない情報が見えてくる。R/Nは「US7SAL080」となっていた。

P/Nは「2W10227」となっており、これを詳細に照合できれば、HDDコントローラの電子回路の設計、SATAインタフェースの仕様、ファームウェアの種類なども特定できるけど、メーカー側がP/Nの対応関係を明らかにしていないと照合は難しい。

HGST製HDDには、後述する「3.3V問題」というものがあり、同じR/Nでもそれの影響を受けるものと受けないものとを区別して出荷していることがある。それを見分ける手がかりになるのがP/Nなんだけど、ユーザーの運用次第でまったく起動しなくなることもある、といったクリティカルな影響を受けるような問題でない限りはP/Nの意味するところの構成が明らかにされていないことが多い。

仕様書

基本的な調査が終わったところで、「型式番号がWD80EMAZ-00WJTA0だったからヘリウム充填型の良いほうのHDDを首尾良く入手できた」と判断してしまうのでは、噂を鵜呑みにして早合点しているのと大差ない。

そこで、WDが正式に公開している仕様書を調査して噂が本当だったのかの証拠固めをする。

Product Manual: Ultrastar DC HC510 (He10) OEM Specification – SATA models ©Western Digital

仕様書冒頭の概要の節に、HDDの容量とR/N(Type)とモデル番号の対応表がある。8TBの行を見ると、Typeは「US7SAL080」となっており、ラベルのR/Nと一致する。Ultrastar DC HC510 8TBと同程度の設計のものであることが確認できた。

Product Manual: Ultrastar DC HC510 (He10) OEM Specification – SATA models ©Western Digital

ただし、HGSTのヘリウム充填技術である「HelioSeal」も含め、すべての技術は既にWDのものであるため、最近は、US7SAL080というR/NはUltrastar DC HC510固有のものではなくなっている。2019年3月頃に製造されたヘリウムガス封入型のWD Red 8TB(WD80EFAX-68LHPN0)にも使われている。

同時期に製造された、封入ガスのないWD Red 8TB(WD80EFAX-68KNBN0)のR/Nは「US7SAN8T0」であり、Ultrastar DC HC320の設計に近いものになっている。同じWD80EFAXでも仕様の異なるものが混在しているというのは非常に紛らわしいけど、ロット単位で常に改良が続けられているということでもあり、ヘリウム充填型など最新技術に敏感でありたいなら、ユーザーも賢くならなければならないということなんだろう。

Product Manual: Ultrastar DC HC320 SATA OEM Specification ©Western Digital

なお、2016年3月頃に製造されたWD Red 8TB(WD80EFZX-68UW8N0)のR/Nは「US7SAJ800」となっており、HGST Ultrastar He8の設計に近い。He8の仕様書は既に削除されているため、現物を閲覧するのは難しいけど、R/Nとの対応関係はネットに残っている断片的な情報からも明らかだ。このR/Nは、同時期のヘリウムガス封入型のWD GoldやWD Purpleの筐体設計にも流用されている。さらに、同時期にWDの外付けHDDとして販売されていたWD easystoreの内蔵HDDに採用されていたWD80EMZZという型番のHDDのR/Nも「US7SAJ800」だった。

R/Nと各モデルの対応
R/N 型式番号 P/N F/W キャッシュ 分類
US7SAL080 Ultrastar DC HC510 (He10)        
WD8003FRYZ-01JPDB1 2W10216 01.01H02 256MB WD Gold
WD82PURZ-85TEUY0 2W10455 82.00A82 256MB WD Purple
WD80EFAX-68LHPN0 2W10209 83.H0A83 256MB WD Red
WD80EMAZ-00WJTA0 2W10227 83.H0A83 256MB?  
WD80EZAZ-11TDBA0 2W10207 83.H0A83 256MB?  
US7SAN8T0 Ultrastar DC HC320        
WD81PURZ-85LWMY0 2W10451 80.00A80 256MB WD Purple
WD8003FFBX-68B9AN0 2W10444 83.00A83 256MB WD Red Pro
WD80EFAX-68KNBN0 2W10443 81.00A81 256MB WD Red
WD80EDAZ-11TA3A0 2W10445 81.00A81 256MB?  
WD80EMAZ-00M9AA0 2W10448 81.00A81 256MB?  
US7SAJ800 Ultrastar He8        
WD8002FRYZ-01FF280 2W10104 01.01H01 128MB WD Gold
WD80PURZ-85YNPY0 2W10114 80.H0A80 128MB WD Purple
WD80PUZX-64NEAY0 2W10103 80.H0A80 128MB WD Purple
WD8001FFWX-68J1UN0 2W10107 83.H0A03 128MB WD Red Pro
WD80EFZX-68UW8N0 2W10102 83.H0A83 128MB WD Red
WD80EMZZ-00TBGA0 2W10101 83.H0A03 128MB  

3.3V問題

次に、仕様書の信号定義のページを見る。信号コネクタの定義は普通のSATA接続のHDDと同じだけど、電源コネクタの定義が普通のものとは異なる。従来は1番から3番ピンには3.3V電源が割り当てられていたけど、この表では1番と2番ピンが「Reserved(予約)」、3番ピンが「Reserved or PWDIS」となっている。これについて、かなり長い注釈がつけられている。注釈を翻訳すると、次のようなことが書いてある。

SATA 3.1仕様及びそれ以前のリビジョンでは、P1、P2及びP3ピンに3.3Vが割り当てられていた。さらに、デバイス・プラグのP1、P2及びP3ピンを一緒にバス接続する必要があった。この製品(Ultrastar DC HC510)のスタンダード構成では、P3はP1及びP2に接続され、この製品はSATA 3.3機能をサポートしないSATA 3.2システム用に設計されたシステムでSATA 3.1又はそれ以前のバージョンの製品として動作する。オプション構成のSATA 3.3 POWER DISABLE機能がサポートされている製品では、P3がPOWER DISABLE CONTROL PINとして割り当てられている。P3をHIGH(2.1~3.6V最大)で駆動すると、駆動回路への電力供給は無効になる。このオプション機能を備えたドライブは、SATA 3.1仕様以前に設計されたシステムではパワーアップしない。これは、P3をHIGHで駆動するとドライブがパワーアップしないためである。

つまり、Ultrastar DC HC510にはスタンダード構成とオプション構成の2種類があり、スタンダード構成のHC510には3.3V電源を供給しても問題なく動作するけど、オプション構成のHC510に3.3V電源を供給してしまうとHDDが起動しないということ。

では、今回使用するWD80EMAZ-00WJTA0はどちらの構成かというと、オプション構成の製品で、一般的なATX電源に接続してしまうと起動しない。試しに古いATX電源を搭載している、先日リフレッシュした旧メインPCに接続したところ、HDDに電源が入らず、システムにドライブとして認識されなかった。もちろん、ケーブルやコネクタに問題がある可能性もあるので、念のためWD Blueを接続してみたところ正常に認識したため、WD80EMAZ-00WJTA0はオプション構成であることが確定した。また、オプション構成であることをもって、SATA 3.3仕様対応品であるHC510の近似品であることも確定した。

もし、DS218jが従来式のSATA電源を供給しているとHDDをセットしても起動しないという問題が起こる可能性があったけど、Synologyの公式サイトを信じる限り、構成に関わらずHC510も使えるため、3.3V電源は供給していないと予測できる。あくまでも予測なので、検証するまではここが第二段階のハードルになるけど、結論から先に書いてしまうと、DS218jはエントリーモデルでありながら、SATA 3.3仕様のHDDにも対応している。

Product Manual: Ultrastar DC HC510 (He10) OEM Specification – SATA models ©Western Digital

現行のSATA接続の3.5インチHDDは、電源として5Vと12Vしか使用していない。2.5インチHDD/SSDは5Vだけで動作する。SATA電源ケーブルには3.3V電源のラインもあるけど、今は使われていないというのが実情だ。唯一の例外として、1.8インチHDDだけが3.3Vを使用しているけど、一般的な用途のPCやNASで1.8インチHDDを使うことはまずない。

そこで、SATA 3.2仕様では3.3V電源を廃止し、1番から3番ピンを予約とした。更にSATA 3.3仕様では1番及び2番ピンを予約とし、3番ピンに「POWER DISABLE」という機能に割り当てることにした。3番ピンに3.6V以下の電圧を印加している間は、HDDの駆動部の電源入力を遮断してパワーアップを抑制するというもので、システム全体の電源を切らなくてもHDDをハードウェア・リセットできるようにするものだという。Ultrastar DC HC510はこのSATA 3.3仕様にいち早く対応しているため、SATA 3.1以前の仕様のATX電源を使用していると3番ピンに3.3V電源が供給されてしまうため、HDDが起動しないという問題が起こった。これを「HGST製HDDの3.3V問題」、一般には略して「3.3V問題」という。

新型番について追記

2020年4月現在、レビュー投稿などを見る限り、WD Elementsの8TBは WD80EMAZ-00WJTA0 で変わっていないようだ。WDは予告なく内蔵HDDを切り換えるので、いつまで製造が続くかはまったく見通しが立たないんだけど。R/Nががらっと変わってしまうような新製品発表の情報もないので、しばらくは今の仕様のHDDを作り続けると思われる。

2020年7月現在、レビュー投稿などの記事を見ると、WD Elementsの8TBは WD80EZAZ-11TDBA0 に変わっているようだ。R/Nが「US7SAL080」で同じであることと、ファームウェアのバージョンが「83.H0A83」でこれも同じであることから、HDDの設計や仕様はほぼ同じ物と推測できる。ヘリウム充填型と見て間違いないだろう。生産拠点の変更とか、単にロットが変わったとか、外部の人間には知りえない事情による型番変更の可能性が高い。ただし、一時は市場に出回らなくなったと思っていたWD80EMAZ-00M9AA0も出荷されているようで、ヘリウム充填型が当たるかどうかは再び運任せになった。

本記事を書いてから1年近く経ち、正真正銘のWD Redや、CMRであることが明言されているWD Red Plusの8TBが2万円を切るようになったので、無理にWD Elementsの内蔵HDDでヘリウム充填型を狙わなくても良くなったとも言える。WD Elementsの8TBが1.6万円で売られているので価格的優位はまだあるけど、運を天に任せて外付けHDDの分解に手を出さなければならないほどの割高感はなくなったように思える。

2021年1月現在、2020年12月~2021年1月頃に日本のAmazonから購入したWD Elementsの8TBは WD80EDAZ-11TA3A0 という新たな型番のものに変わっているとの情報をお寄せ頂いた。調べたところ、HDD本体の製造は2020年2月頃には始まっていたもののようで、R/N は「US7SAN8T0」だった。ファームウェアのバージョンも「81.00A81」であったことから、設計はWD80EMAZ-00M9AA0と同等のものと言える。内蔵HDDが封入ガスがないものに戻ったことで、ヘリウム充填型のHDDを首尾良く手に入れるのは難しくなったようだ。

Western Digital HDD 8TB WD Red NAS RAID 3.5インチ 内蔵HDD WD80EFAX 【国内正規代理店品】
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参考価格: ¥19,750 (2020-08-22)
Western Digital (2018-06-01)

DS218jのRAID1化

USB HDDへのバックアップ

まず、NASにセットされているHDDのフル・バックアップをとる。Synology純正の「Hyper Backup」パッケージを使うのが手っ取り早いけど、目的のデータを欠損なくバックアップできるのなら手段はなんでも良い。DiXiM Media Serverで記録したDTCP-IP対応データがどう取り扱われているのかよくわからなかったので、素直にHyper Backupを使うことにする。

ここでは、WD Elements 8TBのうちの1基をUSB 3.0コネクタに接続し、ファイルシステムを出荷時のNTFSのまま再フォーマットをせず、更に世代管理もせずにバックアップする。データが5TBくらいあったので、バックアップに30時間くらいかかった。イメージ・バックアップを使えば細かいファイルが圧縮されるので、たぶんもう少し速くなる。

差分バックアップで世代管理をすると好きな時点のバージョンに戻せるという利点がある一方、Synology NASでしか解読できないバックアップ・イメージを作ってしまうため、NASが故障した時にデータを復元できなくなる。そのため、NASが故障した時でもWindows PCにUSB HDDを直結してデータにアクセスできるようにNTFSのまま使用する。クライアントとしてWindowsしか想定していないのでNTFSでいいんだけど、Macとの連携も想定する場合はファイルシステムをexFATにしてフォーマットし直すなどの工夫が必要になる。

ボリュームの解放

バックアップが終わったら、ドライブ2に相当するボリュームを解放する。これをあらかじめやっておかないと、DSMはドライブ2のボリュームがまだ存在していると判断してしまうため、HDD2を単純に取り外しただけではボリュームの認識ができなくなり、NASの起動が完了しない。「STATUS」LEDがいつまで経っても点灯せず、使える状態にならないということ。

ドライブ2に相当するボリュームを削除したら、いったんNASをシャットダウンし、HDD2をWD80EMAZ-00WJTA0に交換して起動する。ここで、「DISK 2」のステータスLEDが緑色に点灯すれば、WD80EMAZに正しく電源が供給され、DS218jで使用可能であることが判明する。第二段階のハードルを越えることに成功した。SATA 3.3仕様のHDDでも問題なく使えるとは、SynologyのNASは本当によくできている。

RAID1への変更

ストレージ・マネージャで「RAIDタイプの変更」を選択し、RAID1への変更を指定すると、追加のドライブを指定するように指示される。

追加のドライブにWD80EMAZを指定すると、RAID1への変更と同時に、ミラーリングが開始される。ミラーリングが完了すると、RAIDタイプが「Basic」から「RAID1」に変更される。ただし、RAID1の場合はミラーリングできるサイズは最小容量のドライブに揃えられるため、ストレージ・プールの使用可能容量は3.63TBのまま変わらない。「SHR(Synology Hybrid RAID)」なら、すべての容量を使うことができるけど、Basicボリュームからの変更はできない仕様になっている。

搭載されているHDDを確認すると、ドライブ2に「WD80EMAZ-00WJTA0」が追加されているのがわかる。

ドライブ2の内容はドライブ1の内容と完全に一致している状態になったため、再びNASをシャットダウンし、今度はHDD1を取り外して、WD80EMAZに交換する。この時は、4TBのHDDをストレージ・プールから削除したり、解放したりする必要はない。つまり、わざとRAID1を崩壊させる。

DS218jに装填したHDD
番号 型式番号 R/N 製造日 備考
HDD1 WD80EMAZ-00WJTA0 US7SAL080 2019年6月8日
HDD2 2019年6月27日

2基ともHDDを交換し終わった状態が次の画像。

この状態でNASを起動すると、かなり派手なビープ音が鳴ってRAIDが劣化していると警告される。

劣化ボリュームのリビルド

ストレージ・マネージャを確認すると、ボリューム1及びストレージ・プール1が「劣化」していると表示される。「使用済みドライブ」は1基で、「未使用のドライブ」も1基であることを確認したら、劣化したRAIDボリュームを修復する。

劣化したRAIDストレージ・プールを修復する。リビルドが開始され、RAID1の劣化状態を解消する。

ドライブ1とドライブ2の双方が「WD80EMAZ-00WJTA0」に変更されていることを確認する。

リビルドが完了すると、次の画像のようになる。「ドライブサイズ」は7.28TBになっているけど、ストレージ・プールの容量は3.63TBのまま変わっていない。

「概要」を確認すると、4TBだったドライブ1のデータを損ねずにそのまま移行できていることがわかる。ただし、ストレージ・プールは3.6TBしかないので、使用率は87%と高いままになっている。

RAID1ボリュームの拡張

RAIDに関する一般的な解説を読むと、「RAID1は容量の大きいHDDに交換してもボリュームを拡張できない」といった説明がなされていることが多い。基本的にはそれで正しいんだけど、最近のNASは進歩していて、RAID1であってもHDDの物理容量に余裕があればボリュームを拡張できるようになっている。

アイ・オー・データ機器のNASでは「拡張ボリューム」という独自方式をRAIDを採用していて、RAID1相当の機能を持ちながら大容量のHDDへの拡張ができるということを売りにしているけど、Synology NASでは特殊なRAIDシステムを使うことなく、RAID1ボリュームを拡張できる。

ストレージ・マネージャでボリュームの「構成」を選択すると、ボリュームをHDDの最大容量まで拡張できる。

ボリュームの拡張はほんのわずかな時間で終わり、ストレージ・プールの容量が徐々に増えていって7.3TBまで拡張される。ボリュームの使用率はほぼ半分になり、44%になった。これで、8TBのRAID1システムへの移行が完了した。

USB HDDにバックアップしておいた、ドライブ2に入っていたデータをHyper Backupで書き戻し、RAID1に変更する前の状態と同じになるように復元する。DTCP-IPに対応した他社製NASの場合、録画番組をUSB HDDにバックアップできなかったりすることもあるけど、DS218jの場合は、録画番組をUSB HDDにバックアップし、それを復元しても正常に再生できる。ただし、USB HDDにバックアップされている録画番組を直接再生することはできない。

静音性は悪化

WD BlueをDS218jに装填して使っていた時は、本体正面のアクセス・ランプを見ていないとHDDが動いているのかどうかすらわからないくらい静かだったけれど、WD80EMAZに交換した後はアクセス中の騒音はかなり悪化した。RAID1にしているため、2基のHDDに同時に書き込むことで単純に騒音も倍になる。また、アクセスしていない時でもスピンドルが回っている間は唸っているような音が継続的に出る。スペック上は5,400rpmということになっているけど、騒音だけで言えば7,200rpmクラスのHDDと同等。

エンタープライズ・グレードのHDDといえば、サーバーで使用することを前提としていて、シャーシからの排熱に用いるファンや、サーバー室を冷やすための空調が相当な轟音を出すため、HDDの騒音程度は問題にならないことが多い。

保証期間が2年に限定されるため、WD80EMAZがエンタープライズ・グレードと同等の信頼性を有しているとは考えにくいけど、同じ筐体設計がWD Redの大容量モデルにも使われていることを考えると、コンシューマ向けのHDDも大容量モデルに関しては静音性を一時棚上げにしているとも言える。

関連記事

参考記事

Synology NAS DS218jをWindowsからネットワーク探索

Synology NASのDS218jをLAN内に設置してWindowsのネットワーク探索を使用しても、次の画像のようにNAS本体は「コンピューター」としては検出されない。デバイスやメディア機器としては検出されているけど、これらを選択してもNASの設定画面がWEBブラウザに表示されてしまうので、共有フォルダの一覧が表示されるわけではない。

Windowsを搭載したPCは自動的に検出されるけど、DS218jはLinuxベースのOSで動いているので表示されないのだろうかと思っていた。もちろん、エクスプローラーに「¥¥DS218j」と入力すれば共有フォルダは表示される。

なんとなくネットを眺めていたら、Synology NASをWindowsで検出できる方法があることがわかった。DSM(DiskStation Manager)の設定で「コントロールパネル」の「ファイルサービス」を選び、「詳細」タブを参照する。

WS-Discoveryの項目にある「Windowsネットワーク探索を有効化して、SMB経由のファイルアクセスを許可します」が初期状態では無効になっているので、チェックを入れて有効にする。「適用」ボタンを押すと間もなく設定が反映される。

Windowsに戻って再度ネットワーク探索をかけると、次の画像のようにDS218jが「コンピューター」の一覧に表示されるようになる。

参考記事

Synology DS218jと東芝レコーダーD-M470を連携する

最終更新:2020/05/01

2013年末頃に発売された東芝製タイムシフトマシン搭載のレグザサーバー(HDDレコーダー)D-M470を約5年にわたって愛用している。今回は、Synology NASのエントリーモデル DiskStation DS218jを使って録画番組の整理をしてみた。

D-M470の概要

D-M470は、最大7チャンネルの地上波デジタル放送を同時に録画できる、いわゆる「全録レコーダー」。事前に録画予約をしていなくてもチャンネルさえ指定しておけば自動的に録画が開始され、HDDに記録されている過去番組表から選んで好きな番組の最初に遡って視聴できるという当時としては画期的な視聴スタイルを提案した製品だった。古い番組から順に削除されていくので、見終わった番組をわざわざ削除する操作をしなくてもよく、「手間なし、手放し感」を前面に打ち出していた。

同様の設計思想のレコーダーはその前にDBR-M490があったけど、Blu-rayディスク再生/録画機能を搭載していて全方位をカバーしようとした製品だったので筐体も大きく、価格も他社製品と比べても突出して高価だった。D-M470は、DBR-M490から思い切ってBlu-rayドライブを省略することでシステムを簡略化し、筐体の大幅なダウンサイジングとともに低価格化を図ったモデル。

全録レコーダーはその後2019年現在に至るまで、価格の高さからなのか、インターネットで視聴する動画サイトやコンテンツ配信サービスの隆盛からなのか、それほど一般化せず、東芝かパナソニックの一部機種に残っているに過ぎない。それらもBlu-rayドライブを搭載しているのが前提で、安いものでも7万円くらいから、高級機は16万円前後の価格帯になっている。

タイムシフトマシンの問題点

D-M470のタイムシフトマシンは便利なんだけど、7つあるチューナーのうち6つはタイムシフトマシン専用で通常録画用に転用できず、裏番組が複数重なっている時間帯を予約録画で確実に同時録画しておく方法がない。タイムシフトマシンから残しておきたい番組を「ざんまいプレイ」という番組抽出機能でリストに出させてタイムシフト領域とは別の領域に保存するという運用しかできない。それなりに画質を維持しようとするとタイムシフトマシンは長くても1週間分くらいの番組しか保持しておけないので、多忙だったり、長期の旅行・出張などで留守にしていてリストをチェックできないとシリーズ物の番組を録り逃してしまうというミスが無視できない頻度で起こる。そういった柔軟性のなさなどに不満はありつつも今まで一度も故障はしていないので買い換える動機も弱いのが現状。

なお、最近の東芝製レコーダーのタイムシフトマシンは改善されていて、同じ曜日、同じ時刻の番組を繰り返して自動的に保存しておいてくれる機能が追加されている。通常録画に使えるチューナーが1つしかなくても、すべてのチューナーを効率よく利用できるように進化している。

容量不足問題

更に深刻な問題が容量不足。保存用領域にはUSB接続の外付けHDD(3TB)を利用しているけど、5年も運用していると「一度は観たけど残しておきたい番組」や「いずれは観ようと思っている番組」といった消すに消せないデータが溜まってきてHDDの容量を圧迫してくる。

容量不足はセルフパワーUSBハブ経由で新しいUSB-HDDを追加登録するのが一番簡単な解消方法ではある。ただ、そうした場合、著作権保護の関係で録画したレコーダーでしか再生できないという問題が残るのでD-M470が故障したらすべての録画番組を視聴できなくなる。故障したD-M470を修理したとしても、登録したUSB-HDDを再認識する保証はない。それに、ただUSB-HDDを追加するだけでは、2万円くらいの出費がかさむ割にデジタル機器のスキルが何も向上しない。

2014年12月2日にD-M470のファームウェアに大型アップデートがあり、DTCP-IPに正式に対応した。それまではレグザブランドの限られた機器でしかD-M470に記録されている録画を視聴できなかったけど、iPhoneをはじめとする一般のスマートフォンやWindows PCで視聴できるようになった。その後、I-O DATAやBUFFALOからDTCP-IP対応NASが登場し、録画番組をレコーダーからLAN経由でNASにダビングできるようになった。ただ、DTCP-IPは日本語放送の著作権保護を目的とする日本独自の暗号化技術であったため、海外製NASはDLNAに対応してさえいれば十分と考えられていてDTCP-IPへの対応は遅れていた。サードパーティとして組み込みソフトウェアを開発する日本のIT企業がDTCP-IPサーバー機能をNASに追加するアドオンを海外NASメーカーにも提供したため、I-O DATAとBUFFALO以外の選択肢も増えた。

NAS選定

NASを選定するにあたっては、ハードウェア的な性能ももちろん大事だけど、DTCP-IPサーバーとして運用できる能力がなければならないので、ソフトウェア(ファームウェア)の面でも適否を検討する必要がある。

DTCP-IPサーバー候補

まず、NASをDTCP-IPサーバーとして運用するには、当然ながらDTCP-IP用アドオンが必要になる。候補は次の3つ。

DiXiM Media Server
I-O DATAやBUFFALOのNAS、東芝のREGZA、シャープのAQUOSでも採用している比較的メジャーなDTCP-IPサーバー組み込みソフトウェア。DTCP-IP対応のプレーヤー「DiXiM Play」がダウンロード販売されていて、Android版、Fireタブレット/Fire TV版、iOS版、Windows版と複数のプラットフォームに対応しているのが特徴。

sMedio DTCP Move
Synology、QNAP、ASUSTORなど海外製NASにも採用されていて対応機種は非常に多い。ただ、録画データのムーブに失敗する確率が高く、失敗した場合でもダビング10のコピー可能回数は減ってしまうという問題があるらしく、信頼性の面でやや不安がある。sMedio DTCP Moveに対応するプレーヤー「sMedio TV Suite」がスマートフォンの場合、Androidにしかアプリがなく、iOSにはない。スマートフォンはiPhoneを使っているので、iOS版がないというのは減点になる。

Twonky Server
3つの候補の中では一番歴史があり、QNAPのNASで採用されていたけど、最近事業譲渡などがあった関係で活動を縮小しているようで、Twonky Serverが使えなくなったという話が出ている。また、録画データをムーブしたはいいけれど、それを再生する「Twonky Beam」というアプリが配信停止になって使用不能になってしまっていたりなど、先行きが不透明なところがあるようだ。

東芝がまだAndroidのスマートフォンを販売していた頃は専用のプレーヤーを作って配信していたけれど、ファームウェア更新で東芝製レコーダーがDTCP-IPに対応したために専用プレーヤーが必要なくなり、「DiXiM Play」や「Media Link Player for DTV」を録画番組持ち出しや配信受信用のアプリとして公式に指定するようになった。Media Link Player for DTVは以前から使っていて、番組の持ち出しやD-M470からの配信の視聴ができることはわかっている。また、最新機種ではDiXiMの組み込みソフトウェアを使用していることが公式サイトにも書かれているので、D-M470のファームウェアにもDiXiMの技術が組み込まれている可能性が高い。

特に悪い評判もないので、東芝製レコーダーとの親和性も高そうなDiXiM Media Serverに仮決定する。

NASハードウェアの選定

DiXiM Media Serverをアドオンとして採用しているNASはI-O DATA製かSynology製しかない。I-O DATAは国内メーカーではあるんだけど、HDDはWD Redと決まっている上に、Redを単体で買った場合より価格は高めに設定されている。HDDを搭載していないNASキットもあって好みのHDDを選ぶこともできるんだけど、仮にDiXiM Media Serverでうまく録画データのムーブができなかった場合、他の手段がない。

SynologyはDiXiM Media ServerとsMedio DTCP Moveの両方に対応しているので、ひとつ試して目的が達成できなかった場合に他方のアドオンを試すことができる。ただし、DiXiM Media ServerはDS218jというエントリーモデルにしか対応していないし、今後も対応する予定がないそうなので、この記事を書いている時点ではDS218jを選ぶしかない。発売時点ではDS218j以外のSynology NASにもDiXiM Media Serverを展開する予定はあったようだけど、開発元のデジオンの方針が変わらない限り唯一の機種になりそうだ。

いずれにせよ、まずは録画番組をムーブできないことには容量不足問題を解消できないので、トランスコード機能を搭載していないなど若干スペックに不満はあるけど、NAS本体はDS218jに決定した。

内蔵するHDDについては「NAS向けHDD」と称するモデルが各社ラインナップがあるけれど、一般PC用HDDよりもひとまわり価格が高い。たまたま通販で週末特価販売があったので、WD Blue 4TB 2基とした。一般用でも省電力化や静音化は進んでいるので、Redである必要はないと判断した。

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現状の環境

NASを導入する前の環境は次の図のようになっている。D-M470には有線LANも搭載されているけど、100Mbpsまでの速度しか出ないのでWi-Fiで接続している。2013年発売なので、IEEE802.11nまでしか対応していないけど、5GHzの無線LANには対応しているので、有線LANよりはスループットが出る。ちなみに、東芝製レコーダーは最新機種でもいまだに有線LANはギガビット・イーサネットに対応していないので、Wi-Fi(IEEE802.11ac)で接続することになる。

テレビは東芝の32R9000という機種。2009年製と古いので、イーサネット端子はついているものの、主に番組表やファームウェアの受信のためのもので、DHCP等のLAN機能はない。当然、DTCP-IPにも対応していないので、サーバーから録画番組の配信を受信することもできない。

Wi-FiルーターはASUSのRT-AC68U。新しい機種ではないけれど、後発の機種よりも高性能だったりして評価が高い。ルーターそのものはDTCP-IPとは関係ないので、データの流れを説明する図では省略する。

なお、PCもルーターに接続されているけど、DTCP-IP対応のソフトウェアをインストールしていないので、この図では除外している。

使用可否試験

NASを導入する前に、D-M470と各種プレーヤーの間で致命的な相性問題がないか試験してみた。Media Link Player for DTVは以前から使っているので問題ないことはわかっている。DiXiM PlayのiOS版とWindows版をインストールしてみてお試し1分間視聴ができるので、とりあえず映像と音声が出ることを確認した。ただし、D-M470本体に内蔵されているHDDの録画番組は配信されるけど、USB-HDDに記録されている録画番組は番組リストすらブラウズできなかった。スリープ状態になっているUSB-HDDをウェークアップしている気配すらなかった。

ブラウズできない理由ははっきりしないけど、ひとつ言えることは、東芝製のレコーダーは録画番組を見た目上フォルダで管理できるけどWindowsのフォルダのようにそこに格納されているわけではなく、タグ付けのように扱われているということ。したがって、ひとつの「すべて」フォルダに録画番組が全部格納されているため、ブラウズしようとすると大量のリストをロードしなければならないため応答しないと考えられる。

後でNASを導入してからわかったことなんだけど、スマートフォンアプリでAVC 5.8相当のHD画質の録画番組を再生できていたのは、D-M470がトランスコードしているからだと判明した。旧式の機種ながら、トランスコード機能を実装しているとは意外に優秀な機器だった。

DS218j導入

NASを導入した環境を表したのが次の図。Windows PCには無線LAN機能がないのでギガビット有線LAN。DS218jにも無線LANはないので、付属のLANケーブルで接続。ギガビットに対応しているので配信には問題ないけど、SATAなどと比べると転送量は少ないので書き込みにはやや時間がかかる。

RAIDはあえて組んでいない。LAN内に4TBのHDDを2基配置したイメージで、片方を録画番組の倉庫に、他方をPCなどのデータのバックアップ領域にする。冗長性がないのでどちらかのHDDが故障したらそのHDDのデータは失われてしまうけど、テレビ番組の録画なら失ってもそれほど惜しくはないのでRAIDを組むことで有効容量が少なくなるデメリットのほうが大きい。そもそも、レコーダー内蔵のHDDも、USB-HDDも、冗長化なんてしてなくて5年も運用していたわけだし、今更故障リスクを考え始めるのも滑稽な話だ。

PCバックアップはPC内のメインストレージのRAID 1か、そのRAID 1の内容をまるごとコピーした古いHDDを転用した内蔵バックアップか、NASのHDDのいずれかに生き残っていれば救済できるので、PC外のデータ分散先までRAIDにする必要はない。

なお、DS218j本体やDiXiM Media Serverの導入方法については他にも詳しい記事がたくさんあるので、ここでは述べない。

ダビング

レコーダーからDiXiM Media Serverに録画番組をコピーする方法は、アップロード型とダウンロード型がある。アップロード型はレコーダーを操作してDiXiM Media Serverにデータを送信する方法で、ダウンロード型はNASのDiXiM Media Serverを操作してレコーダーにデータを要求して受信する方法。どちらの方法を使うかはレコーダーの設計に左右されるけど、アップロード型が多数派。ダウンロード型の機器はかなり限定される。

どちらが優れているとは言い切れないけど、アップロード型はレコーダーとNASが起動していれば操作を完結できる。ダウンロード型はPC、タブレット、スマートフォンのウェブブラウザを起動してNASを操作しなければならない。ただ、ダウンロード型はデータの転送要求に応えることさえできればいいので、SONYのnasneのように、もともとアップロード機能を持っていない機器でも対応できる可能性があるというのが利点。

D-M470はアップロード型でもあり、ダウンロード型でもある。良く言えばハイブリッド型だけど、録画番組の種類によって切り換える必要があるという意味ではレコーダーを操作したり、NASを操作したりとせわしないとも言える。

通常録画番組(HD画質)

通常録画で記録したHD画質の番組は、レコーダーを操作してNASに送信する。デフォルトではDS218jにつけたサーバー名に [DiXiM Media Server] を加えた名前で表示される。この名前を識別のためのフレンドリー名と呼ぶけど、長すぎると思う場合は変更できる。

AVC 5.8相当で記録した録画番組の場合、30分番組なら約5分で転送が完了する。レコーダーに直結されているUSB-HDD同士でダビングする場合のようにダビング10のコピー可能回数の残りごと移動させることはできないので、元の録画番組のコピー可能回数が1つ減り、NASに複製ができる。NASへコピーした録画番組は1回分のコピー回数しか残っていないので、NASから更にどこかへムーブしたりコピーしたりすることはできない。

持ち出し変換済み番組(SD画質)

持ち出し番組として変換した録画番組の場合はD-M470本体内蔵HDDの専用領域に記録されているため、レコーダーからではアップロード操作ができない(リストの確認と削除はできる)。NAS側を操作してレコーダーからリストを取得し、ムーブしたい番組を選んでダウンロードする。スマートフォンのアプリを使って番組を持ち出すのと感覚的には同じ。ファイルサイズが小さいので、30分番組なら1分半程度で転送が完了する。

DiXiM Media Serverにはタスクを設定してダウンロード可能な録画番組ができたら自動的にダウンロードする機能があるけど、D-M470はこの機能に対応していないので、自動ダウンロードはできない。

ダビングまとめ

上記のダビング方法を表すと次の図ようになる。パナソニック製のダウンロード型のレコーダーの場合、DiXiM Media Serverを操作して録画データを低解像度のデータに変換しながら優先してダウンロードすることができるんだけど、D-M470の場合は一度レコーダー側で低解像度の録画データを作成してからでないとDiXiM Media Serverに送れない。この辺は設計思想の違いで、新旧に関わらず東芝製レコーダーの共通仕様であり、仕方がないと諦めるしかなさそうだ。

DiXiM Media Serverの公開フォルダは通常の共有フォルダと同等に扱われるため、Windowsのエクスプローラーから中身を参照することもできる。また、公開フォルダを複数設定することもでき、ボリューム1が満杯になったらボリューム2を利用できる。NASから外に出すことはできないけど、NASの中で移動させる分には何度でも移動できるため、8TBの格納領域を得たことになる。注意点としては、Windowsのエクスプローラーでファイルを移動させることも一応できるんだけど、コピー可能回数の情報が欠落してしまうので、少々面倒でもDiXiM Media Serverをちゃんと操作して移動させるほうが良い。

なお、sMedio DTCP Moveは公開フォルダを別の方法で参照することができないように権限が設定されているそうだ。

再生検証

レコーダーの録画番組をNASに移せたとしても、それを再生できないのでは意味がない。上記の使用可否試験で問題なかったDiXiM PlayのWindows版とiOS版、Media Link Player for DTVの3種のプレーヤーで検証した。他にもPower DVDがDTCP-IPに対応しているようだけど、ライセンスを購入してからでないとDTCP-IP機能を試せないので今回は検証していない。

DiXiM Play (Windows)

Windows版のDiXiM Playは画面サイズ、メモリ容量、CPUパワーなど色々余裕があるのでそれほど心配はしてなかったんだけど、HD画質でもSD画質でも正常に再生できた。ビットレートの高低も関係なさそうだったけど、オリジナルの録画番組がAVC 5.8相当なのでそれより上げて録画した場合は特にチェックしていない。

DRモードで録画した番組も問題なく再生できたけど、DRモードにはこだわっていない。

DRモードはMPEG-2であるのに対し、MPEG-4 AVC/H.264による録画は機器間のデータ互換性を高める効果もあるためだ。MPEG-2はエンコードに実数演算を使っていてCPUの演算精度によってはデコード時の誤差が蓄積するため、他社製機器間でのデータの互換性はあまり考慮されていない。一方、MPEG-4 AVC/H.264は16ビット整数演算でエンコード/デコードするためCPUの性能差による誤差が生じない。つまり、NASに限らずDTCP-IPに対応してさえいれば、東芝製とパナソニック製のレコーダーをLANで接続して録画番組をダビングすることもできる。よって、AVCで圧縮したデータさえ再生可能であれば、D-M470が故障して買い換えることになっても新しいレコーダーで再生できるかどうかは必要以上に心配しなくてよい。

D-M470で再生する場合との比較を次に示す。

  • 利点(優れている点)
    • 0.8倍速再生ができる。
    • 1.0倍再生だけでなく、0.8倍、1.2倍、1.5倍、2.0倍速再生でも字幕が表示される。
    • 0.8倍、1.2倍、1.5倍、2.0倍速再生でも音声が出力される。(DTCP-IP対応プレーヤーでは出ないものもある)
    • マウス等のポインティング・デバイスで操作できるため操作が直感的。
    • NAS上の物理フォルダを指定してリストを閲覧できる。
    • ジャンルやチャンネルなど物理フォルダを横断して番組の属性でリスト表示できる。
  • 欠点(劣っている点)
    • マジックチャプター機能で自動的に切られたチャプター情報はなくなり、1チャプターに結合されるため、CMをスキップできない。
    • リモコンを使えないので、遠くからでは操作できない。
    • ショートカットキーがないので、遠隔操作のためにはBluetoothキーボードは使用できず、ワイヤレス・トラックボールやジャイロセンサーマウスなど片手操作が可能なポインティング・デバイスが必須。
    • リストでは録画画質が判別できない。複数の画質が混在する場合はフォルダ分けをするなど工夫が必要。
    • テレビやレコーダーの映像処理エンジンを利用できないため、映像に鮮やかさがない。
    • 再生していた番組が終わった時にその番組がハイライトされないため、次の番組を続けて観たい時にわかりにくい。

DiXiM Play (iOS)

iOS版のDiXiM PlayはDiXiM Media Serverと同じ企業が作った割には想定より成績が悪かった。持ち出し変換済みの録画番組を再生できるのみで、HD画質の録画番組はビットレートに関わらずまったく再生できなかった。再生可能判定を緩くするという設定があったので試してみたけど、音声だけ出て映像は出ないというケースがあり、再生できるとは言えなかった。結局、iOS版のDiXiM Playには課金しなかった。

DRモードには対応していない。

Media Link Player for DTV (iOS)

想定外に成績が良かったのがMedia Link Player for DTV。持ち出し変換済みの録画番組を再生できるのはもちろん、番組によってはHD画質の録画を再生できるものがあった。ビットレートは関係ないようだったけど、何が違うとHD画質で再生できるのかははっきりしない。

ギガビットLANとIEEE802.11acを使えるため、D-M470から直接配信を受けるよりもレスポンスが良く、スライダーで再生位置を調整したりスキップしたりする時の待ち時間がほとんどなく、まったくストレスがなかった。

DRモードには対応していない。「対応していないフォーマットです」と明確にエラーメッセージが出る。

再生検証まとめ

Windows PCで再生する分にはどんな画質や解像度でも対応できるだけど、スマートフォンで視聴したい場合は持ち出し変換して低解像度にしておくことが必須。

持ち出し変換は等速でしか実行できなくて非常に時間がかかるので、録画予約と同時に持ち出し変換も予約しておいてD-M470が比較的暇な時に実行しておいてもらうという運用をする必要が出てきた。タイムシフトマシンから保存した録画は同時変換ができないので、寝ている間や外出中に変換するようにタスクを積んでおくしかない。変換中はタイムシフト再生や通常録画の再生もできなくなり、ほとんど何もできなくなる。最新機種はこの辺も改善されていて、保存時に変換タスクを積んでおくことができる。

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